日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 608
会議情報

柿産地としての奈良県五條市における生産・流通と担い手
「日本一の柿のまち」の課題と可能性
*河本 大地重永 瞬菊川 翔太森下 航平西山 幸志渡邉 一輝小林 夕莉石川 聡一郎原川 優羽紀高原 佳穂
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.目的

 柿産地としての奈良県五條市における生産・流通と担い手の実態を明らかにする。同市は,市町村単位でみて全国最大の柿の生産量を誇り,「日本一の柿のまち」としての地域づくりをおこなっている。その課題と可能性を検討する。

Ⅱ.方法

 まず,研究対象地域の集落・農地等の景観観察をおこない,地域の概要を把握した。また,五條市役所,柿やその加工品(柿の葉寿司を含む)の販売所,加工品の製造業者,選果場,奈良県農業研究開発センターの果樹・薬草研究センター,JAならけん西吉野柿部会が主催する「柿の里まつり」などを訪ね,聞き取り等をおこなった。さらに,研究対象に関わる文献を渉猟し,産地展開の経緯や農業の担い手に対する支援施策等を把握するとともに,農林業センサスを用いて農業集落ごとの経営体の特徴を把握し地図やグラフにまとめた。

 その後,農家をはじめとする農業経営体への聞き取り(一部はウェブフォームを用いたアンケート)による経営実態の把握や,農業協同組合(JA)等の集出荷団体,加工品の製造販売業者,五條市地域商社,観光農園をはじめとする流通・加工・販売や観光事業をおこなう主体への聞き取りによる柿(果実)および柿の葉の流通ルートの把握などを進めた。

 なお,本研究は,五條市史編集委員会地理環境部会の活動として,五條市教育委員会および地域の方々のご協力のもと実施している(小池ほか報告も同様)。

Ⅲ.結果と考察

  五條市における果樹生産は,2005年までの五條市の南部および西吉野村北部を中心におこなわれており(図1),その大半が柿である。多様な品種の栽培や,梅やぶどうなどとの組み合わせでリスク分散化を図る経営体が多い。20~40歳代の若手農業経営者は旧西吉野村を中心に多いが、その大半は親元就農であり,新規参入者は少ない。市や農業委員会,JAならけん西吉野柿部会などが連携した形で、担い手の確保・育成の取組が進められている。

  柿(果実)の流通は農協(JAならけん)系統が多く,農家からは旧五條市と旧西吉野村の選果場に出荷される。一部の農家は,農協以外の流通ルートを開拓してきた集出荷団体を利用しており,独自ブランドのネット販売等にも積極的である。

 五條市には奈良県名産のひとつである柿の葉寿司を製造・販売する業者もあるが,柿の葉の多くには中国産のものが用いられている。かつては柿農家の農閑期の副収入として柿の葉が出荷されていたが,農薬の規制強化等の影響で少なくなった。他方,地場産の柿の葉の生産を強化する取組も見られる。柿の葉生産専門の農園もあり,そこからの柿の葉の約2割が柿の葉寿司に,約8割が粉末や茶葉などに用いられているという。五條市地域商社は,耕作放棄地を活用して柿の葉を生産する取組を開始した。

  地味な印象を持たれがちな柿をおしゃれなスイーツにする業者や,柿を使ったメニューを提供する飲食店,有機栽培の柿の葉を用いた商品や柿渋原料を製造する業者も生まれている。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top