主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
2012年の中央教育審議会初等中等教育分科会の意見整理の中で,小中一貫教育を実施する小・中学校と,中高一貫教育校が連携し,地域において児童生徒の成長を一貫して支援する教育の在り方を検討する必要について言及され,小中高の一貫性が今後ますます検討されていくと思われる。そこで本稿では,地理教育における小中高の一貫性を再検討するにあたり,地理教育の小中高の一貫性が戦後どのように研究されてきたのかを整理することにした。さて,一般にカリキュラム編成の過程は,調査等にもとづかない経験や直感による「提言」が多く存在している状況から,カリキュラムの実態や諸学問(教育学や心理学等)の知見を生かして「調査+提言」し,カリキュラムを「開発(再構成)」,「実践」,その結果を「評価」し,最終的に「理論化」していく。この過程はカリキュラム研究の深化の程度をも表すと言えることから,地理教育の一貫性を表すためにこの6段階のフェイズを用いることにした。この表を分析枠組みとして,1947〜2022年にかけての先行研究を表に整理し,学習指導要領の改訂時期ごとに特徴をまとめた。1 2022年現在,一貫カリキュラムといっても,小中,中高など隣接校種との一貫性や連携にとどまるものが多く,小中高を通した実践・研究はまれであった。また,「理論化」フェイズまで到達しているものは見られない。2 一貫カリキュラム研究は,単なる経験にもとづく「提言」フェイズから,次第に「調査+提言」フェイズなど2以上のフェイズに移行していった。3 1977年以後,小中高一貫カリキュラム研究が,論文のみならず科研費によるものも増加している。その理由は,1973年度に高等学校の進学率が90%を越えたことにより,改めて一貫性を見直す動きが出てきたからではないかと考えられる。4 1990年代,急速に「提言」フェイズが減少した。その理由は,この時期になって,発達段階についての調査研究がしだいに蓄積され,それらを用いて,「開発・実践」フェイズに相当する論考や実践が増えたからではないかと考えられる。5 ただし,詳細にその研究内容を見てみると,「調査+提言」が蓄積し,その後に「開発及び実践研究」が増えていくといった一方向の流れには必ずしもなっていない。その理由は,実際には開発・実践をした後に,「調査+提言」にもどり,再度「実践」を行うといった理論と実践の往還があったからだと考えられる。6 1970年代前半からの地理教育一貫カリキュラム研究史における鳥海公の存在は大きい。鳥海は,プロジェクトチームで行うようなカリキュラム一貫研究を,個人で実行した。山口幸男もまた,興味関心内容の発達傾向を調査し,それを踏まえて一貫カリキュラムの実践を行った。この二人のあと,日本地理教育学会小中高一貫カリキュラム研究グループ(山口幸男・西木敏夫・八田二三一ら)によって,プロジェクト化されて大規模化したものの,そのあと一貫カリキュラム研究は一時的におさまった感がある。7 2017年以降吉田剛によって,幼小中高の一貫性についての論考が見られるようになった。その理由は,2017年に幼小中高の学習指導要領等で,見方・考え方を育成するために学校種を越えた一貫カリキュラムが求められるようになったからと考えられる。 約75年にわたって地理教育の実践者や研究者は一貫カリキュラムについて多くの研究を行ってきた。今後は,これまで蓄積された提言や仮説的な理論を再度整理した上で,実践者と研究者が共同して研究を進めることが求められると言えよう。