主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
小中高学習指導要領社会系教科に「社会的事象等について調べまとめる技能」の領域内容が小中高を一括して示されたが,「収集する」「読み取る」「まとめる」の探究と,地図や調査活動などの作業の技能に関するわずかな例示に止まる。背景にはSociety5.0に向け,情報処理の重視が窺える。本稿は,探究を地理情報の処理過程を意図する地理的探究とし,作業を地理的見方・考え方や地理的探究のための具体的な操作となる地理的技能とする。先行研究上,地理的技能は様々にみられるが,国策の地理空間情報の活用が推進される中で,地理的探究は十分にみられない。吉田(2011)は,米国地理スタンダード1994(K-12)の影響を指摘し,地理的技能と関わる地理的探究を提示した。また吉田・管野(2023)は,幼小中高一貫の豪州NSW地理シラバス(NSW地理2015)の地理的探究を思考動作から分析・検討し,その一貫性は,『獲得』『処理』『伝達』が系統に反映され,学習段階に応じて重みが移り変わる。一方,我が国の地理的探究の系統は,とくに情報の分析・処理の意図が弱く,概ね理念的な指示に止まる。
そこで本稿は,我が国に応じる幼小中高一貫地理教育における地理的探究の系統について論じることを目的とする。方法は,幼稚園教育要領・小中高学習指導要領にみる地理的概念の特徴からみる学習段階のシークエンスを用いて,NSW 地理 2015 の地理的探究の内容を修正し段階付ける。そして今後の展望について言及する。
主な結果として本稿は,地理的概念を中心とする【内容】【方法】【価値】の構成領域を内容構成のスコープとした一貫カリキュラムを想定し,先の地理的概念によるシークエンスを用いる。【方法】には,地理的概念の活用に依拠する思考力・判断力・表現力に関わるスキルとし,その中に地理的探究,地理的技能,地理学体系アプローチが属する。地理的探究は,課題解決のための地理情報の処理過程とし,NSW地理 2015 を参考に,3過程と6要素(第1表)から,必要とする地理的技能の活用が意図される。そして地理的探究の系統は,第2表の例示のように K・1~8のレベルから示すことができた。
地理的探究の系統表は,3過程と6要素の理解とともにそれらの積み上げを見通せることができ,一貫軸として確かめられた。各学習段階の共通点と相違点を確認して,先を見通し,後を振り返り,各学習段階の教員が共有し合うことによる教育効果が期待できる。その前提には,理論的に根拠付けるシークエンスやスコープのもとに地理的探究の系統が位置付けられる。地理的概念や地理的技能の系統との同期を見据え,それらが思考動作を通じてより糸となって一体となるように考えられた。
課題には,それらの一体を具体的に示すために,各学習段階の到達目標ごとの内容のまとまり(単元設定とその配列)を構成し,思考動作を通じた地理的概念や地理的技能との関わりを検討すること。そして一貫軸における児童生徒の環境拡大や地理学体系(地誌・系統地理・テーマ)による構成原理を導き出し,具体的な内容のまとまりを構成することがあげられる。