主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
日本のサンゴ礁の大部分は裾礁型であり,陸に隣接して成立しているため,近隣河川からの赤土の流入がサンゴ礁生態系に影響を及ぼしている.特に沖縄県周辺海域は,豊かなサンゴ礁が広がる代表的な場所である.しかし,近年赤土の流出によるサンゴ礁への被害が問題視されている.沖縄県では地形・土壌・多雨等の赤土が流出しやすい自然的条件に,農地・土地開発等の人間活動が加わり赤土汚濁が発生している.赤土流出に関する研究は多数行われてきたが,流出要因とその空間的・季節的差異を広域的に言及するには至っていない.そこで本研究では,赤土流出を促す地形・土地利用等の陸域環境要因と河口でのSPSS値(海域底質中懸濁物質含有量)との関係を流域単位で統計的に分析し,陸域環境要因がSPSS値に与える影響とその空間的差異を明らかにする.対象地域は,沖縄県石垣島と西表島である.数値標高モデル(DEM)から得られる地形量(流域面積,標高,傾斜)および土地利用面積(住宅地,商業地区,工業地区,空地,改変工事中の地域,田,畑,サトウキビ畑,果樹園,パイナップル畑,牧場・牧草地,温室,森林,野草地,裸地,道路)とSPSS値との関係を機械学習の一つであるRandom forest法を用いて分析し,その重要度を検討した.その結果,SPSS値に影響を与える重要な陸域環境要因には,空間的差異と季節変化が見られた.特に石垣島は開発が進んでおり,住宅地,空地,裸地,改変工事中の地域等の人工的な土地利用が重要であった.西表島は,相対的に斜面傾斜のような地形条件の重要度が高かった。また,田,牧場・牧草地等の従来はあまり指摘されてこなかった土地利用からの赤土流出の可能性が示唆された.今後はより詳細な陸域環境要因の検討が必要であるが,本研究結果に基づく陸域環境要因とサンゴの生息状況との検討は,サンゴ礁生態系の保全に貢献できると考えられる.