1. 課題設定・方法
本報告の目的は,2015年および2020年の農林業センサスの個票データを用いて,2020年に参入・退出した林業経営体の特徴を,参入・退出の発生地域,森林経営計画の有無,農作物販売金額における主位部門の構成比率から地域差の有無を分析することである.データは農林水産省から提供された個票データを,構造動態マスタによって経年比較ができるように接続している.
2. 参入・退出の発生地域
2015年は林業経営体であり,2020年に林業経営体の要件を満たさずに退出した客体は59,898,2020年に新たに林業経営体として参入した客体は6,615である.参入・退出を林業経営体の増減率と見なした場合,北海道,岩手県,岐阜県,広島県でいずれも寄与度が高く,世代交代による個票データの不連続が懸念された.しかし,林業経営体の退出寄与度の高い場所は,参入寄与度の高い場所と旧市町村別で一致せず,個票データに不連続はない可能性が高い.
3. 森林経営計画
林業経営体の該当要件は,保有面積,施業実績,森林経営計画の有無,一定規模以上の受託である。このうち,森林経営計画の有無は,施業集約化の取り組み強化や補助金交付対象の条件であることなどから,施業実施時に計画対象区域に参入し,5年毎の見直し時に対象から外れて林業経営体の要件を満たさなくなる可能性がある.しかし,森林経営計画がなくなったことにより退出した客体の割合が高い都道府県は,北海道,広島県,岐阜県の順(図1),同様に参入では広島県,北海道,長野県の順(図2)であり,森林経営計画の有無が林業経営体の参入・退出に影響する地域は一部存在することが確認された.
4. 農作物販売金額における主要部門の構成比率
退出した林業経営体の約半数は,農林業経営体(2015年)から農業経営体(2020年)に移行した経営体である.当該移行経営体の農作物販売金額における主要部門の構成比率を,農林業経営体(2015・2020年で継続)とで地域間で比較したが,ほとんど差は見られず,退出要因に農業経営が影響している可能性は示唆されなかった.
付記:本報告はJSPS科研費22H02379の助成を受けて実施した研究成果の一部である。