日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P031
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埼玉県内における熱中症リスクの地域性
暑さ指数の観測結果から考える熱中症対策
*大和 広明
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抄録

はじめに

関東平野の内陸部に位置する埼玉県では夏季の暑さが厳しくなってきている。海風や谷風などの局地風系が発達しやすい典型的な夏季の晴天日には,海からの冷気の影響を受ける沿岸部に比べ,関東平野の内陸部に位置する埼玉県の平野部は日最高気温が高くなりやすい傾向にある。南よりの海風に伴う冷気によって関東平野の南部から北部にかけて順に気温が低下することが挙げられる。海からの冷気の影響で気温が低下し始める時間が埼玉県内で異なることから,熱中症発症リスクに地域差があることが想定される。そこで,県民が身のまわりの熱中症リスクを把握できるように,県内の複数地点で独自に開発した「IoT暑さ指数計」を使用して,暑さ指数の観測を行い,その観測結果をリアルタイムにWebサイトで公開した。本発表では,IoT暑さ指数計の観測データを元に埼玉県内の熱中症リスクの地域性についての実態把握を行い,その地域性をもたらす要因として,暑さ指数の時間変化やその構成要素に着目して考察した結果について報告する。

IoT暑さ指数計について

マイコン(Arduino Pro 328 8MHz/3.3V)に,各種センサー(湿度センサー:Sensirion社製 SHT-35,気温・黒球温度センサー: SEMITEC(株)製 103AT-11),Sigfox通信モジュール(Sigfox Shield for Arduino V2/V2S),18650型のニッケル水素電池,太陽光パネルを組み合わせ,防水ボックスに収納したものである。気温と湿度センサーは,自然通風式シェルター(Young製 CYG-41303)に挿入して観測し,気温と相対湿度から湿球温度を算出した。黒球温度は,酒井ほか(2009)に従って,黒色塗装したピンポン球を黒球の代用として観測を行い,気温,湿球温度,黒球温度から暑さ指数をマイコンで算出して,約10分毎にsigfox回線を通して,インターネット上のサーバーへデータを送信してwebサイトで観測データを公開した。IoT暑さ指数計は2023年の7−9月に24地点,2024年の6-9月(予定)には30地点に設置した。

埼玉県内の熱中症リスクの地域性

2023年の晴天高温日(熊谷で日最高気温35℃以上かつ日照時間7時間以上の40日間)の観測データを用いて熱中症リスクの地域性について解析した。晴天高温日の日中(9時から15時)平均の暑さ指数は,県中央地域を南北に縦断し人口の多い地域を通る JR 高崎線沿いの観測点で他の観測点より約1℃高く,逆に県⻄部の秩父市と県南部の三郷市,新座市では0.5℃ほど低くかった。暑さ指数が低下し始める夕方(16時〜18時)では,県北部でもっとも高い傾向にありJR 高崎線沿いの観測点で次いで高い地域性が見られた。暑さ指数が急減する時間は川口〜熊谷にかけてのJR 高崎線沿いの観測点でその他の観測点よりも1時間ほど遅いことが,この時間帯における暑さ指数が高いこと原因となっていた。また暑さ指数の算出元である気温と黒球温度は都県境で低くそれ以外では高い分布であり,地域性が見られた。一方で湿球温度については地域性が見られなかった。IoT暑さ指数計の設置地点周囲の地表面被覆が芝生から裸地面まで統一性が無いため,地域性が見られなかった可能性がある。2024年は屋上で観測をおこなったため,学会では2024年のデータも加えて地表面被覆の影響について考察する。また,屋外で熱中症リスクを下げる対策として,直射日光を遮る(日傘をさす,日陰で行動する)ことが挙げられる。この対策を実行した場合を想定し,黒球温度を気温に置き換えて暑さ指数を算出した。算出した暑さ指数が,28℃を下回る時刻は県中央部から北部と県南部の川口市でもっとも遅く,17時半〜18時であり,周辺の地域より最大で2時間も遅かった。そのため,これらの地域では直射日光を遮る対策をしてもなお,日没前後まで熱中症リスクが高い一方で,その他の地域では対策を行えれば屋外での活動の際も熱中症リスクを低く保てることが明らかとなった。

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