日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P032
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埼玉県熊谷市における夏季の気温の日変化特性
*神田 三冬赤坂 郁美
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キーワード: 熊谷市, 夏季, 気温, 日変化
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抄録

1. はじめに

 埼玉県熊谷市は、日本の中でも夏季に高温日が出現しやすい地域として知られている。たとえば、福岡ら(2004)は、市街地に位置する熊谷地方気象台と、郊外に位置する立正大学熊谷キャンパスの気象観測値とを比較し、暖候期は都市部の気温が高い傾向にあることや、最高気温の平均値はわずかながら常に市街地の方が高いことを示した。また、中村・重田(2014)は、熊谷市を中心とした東西約16km、南北約16kmの範囲に46の定点気温観測点を設定して、ヒートアイランド強度の日変化パターンを調査した。結果として、土地被覆形態が気温に大きな影響を及ぼしており、熊谷駅周辺の市街地では、22時頃にヒートアイランド現象が認められることを示した。対して、水田では日中に、樹林地や畑地では5時頃に低温域が形成されることも示している。

 このように、熊谷市における夏季の気温に関しては多くの観測的研究が行われている。しかし、熊谷駅を中心とした比較的狭い範囲にも様々な土地利用形態がみられるものの、その気温の日変化特性は明らかになっていない。そこで本研究では、熊谷駅周辺における気温日変化の空間的差異を、主に移動観測により明らかにする。

2. 調査方法

 熊谷駅周辺における夏季の気温の日変化特性を調査するために、2023年8月に気温の移動観測と定点観測を行った。移動観測は、5時、8時、11時、14時、17時、20時、22時、翌朝3時、5時(計9回)に自転車で行った。観測日は2023年8月18日~19日と8月25日~26日である。気温の他に、地表面温度、風向風速を観測した。気温計はT&D社製TR42、地表面温度計はtesto社製赤外放射温度計、風向風速計はニールセン・ケラーマン社製ケストレル5500を使用した。観測日の天候は晴天(日照時間7時間以上かつ日降水量1mm未満)であった。

 移動観測の地点数は計17地点で、熊谷駅を中心とした半径約1kmの範囲内を対象に、土地利用や周辺環境の異なる地点(駅北側の住宅地、駅南側の住宅地、水田、公園、国道沿い、荒川沿い等)を設定した。また、観測中の気温の時間変化を把握するために、荒川周辺に位置する小学校1か所にデータロガー付き温度計(T&D社製TR52i)を設置し、10分間隔で気温データを取得した。観測期間は2023年7月25日~9月4日である。観測期間中の気象概況の把握のために、熊谷地方気象台の気温、風向風速データの1時間値も使用した。

3. 結果と考察

 8月18日5時~19日5時の気温変化を図1に示す。17地点の中から代表として、最も荒川の近くに位置する①雨水ポンプ場、②駅南側の住宅地、③駅北側の住宅地の3地点の気温の日変化を示している。3地点とも、8時から11時にかけて気温が上昇しており、その上昇幅は4~8℃と大きい。日中から夜間にかけての気温の低下は、①地点では17時から20時にかけて、②地点と③地点では14時から20時にかけてみられた。荒川周辺の①地点と、熊谷駅付近の②及び③地点との気温差は、11時から14時にかけて最も大きくなっている。住宅地(②及び③地点)では14時が高温のピークになっており、駅南側の②地点で気温が最も高くなった。一方、荒川周辺の①地点では、日中に住宅地ほどの高温には達していない。この特徴は、①地点と同じく荒川周辺に位置する定点の気温でも同様であった。そのため、荒川の影響により気温上昇が抑制されている可能性が示唆される。

 また、本調査の結果より、気温の日変化特性と土地被覆形態との関係を分析するには、もう少し観測範囲を広げる必要があることもわかった。今夏の調査では、より多様な土地被覆を跨る測線を設定し、範囲を広げて移動観測を行う。加えて、気温の定点観測点も複数設定する予定である。発表では、それらの調査結果についても示す。

引用文献

 中村祐輔・重田祥範(2014)定点型観測と多変量解析によるヒートアイランド強度の日変化パターンの抽出―2013年8月の埼玉県熊谷市を対象としてー, 環境情報科学学術研究論文集, 28, 379-384

 福岡義隆・新井正・丸本美紀(2004)熊谷市の都市と郊外の気温特性(第1報)極値気候の比較考察, 地球環境研究, 6, 117-124

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