Ⅰ はじめに
吾妻川は流域に草津白根山、浅間山、榛名山と3つの活火山を抱える。それぞれ山麓には温泉地を抱え、特に草津温泉の強酸性水を下流環境への影響が危惧され古くから水質に関する研究や対策が進められてきた(都築ほか2011)。そして、浅間山と草津白根山では近年でも噴火活動が度々発生しており、環境水への影響については平時からのモニタリングが重要となる。また、火山周辺には観光地や農地も広がっておりその意義は殊更である。筆者らは2014年より浅間山・草津白根山において現地調査・採水分析を継続している(猪狩ほか2018, 2019)。より大流域での物質収支課程を明らかにするため2017年以降は吾妻川流域も調査対象とした。浅間山・草津白根山での既存研究成果と併せ、直近の吾妻川中下流域の河川水質概況について主に現地での水質測定結果より整理と考察を試みた。
Ⅱ 研究方法
吾妻川流域では、2017年から現在に至るまで31回の現地調査および採水を実施した。測定・採水の対象地点は上流域の嬬恋村から利根川合流部に至るまでの約40地点である。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、COD、流量の測定を実施した。
また、浅間山および草津白根山周辺では、2014年以降それぞれ約30地点ずつ既に調査・溶存成分分析を実施継続している。したがって吾妻川流域全体の調査地点は約100地点ほどとなる。
Ⅲ 結果と考察
図1および図2に吾妻川流域のpHおよびECの観測結果を掲載した。30回を超える調査で時系列データが多く存在する為、各観測地点の中央値にて整理した。
pHの分布を概観すると、草津白根山山麓にてpH 4.0を下回る強酸性の河川が多く分布していることが見て取れる(万座川・白砂川・湯川流域)。浅間山山麓では主に上流域にてpH 5.0-6.0の間を示す河川が分布している。一方で吾妻川下流域の主要支川(四万川・温川・名久田川)では、pH 6.0-7.0の間を示しており、草津白根山・浅間山山麓からの流出河川よりもpHが高い。
ECの分布では、草津白根山周辺、特に草津温泉・万座温泉や廃鉱の下流で高いECが確認され、最も高い地点では6,000μS/cm近い値が観測された。既存の分析結果では硫黄濃度が高く、火山体からの物質供給が盛んであることが示唆される。また、浅間山東麓でも、吾妻川下流域に比べて高いECを示す河川が幾つか見られ、こちらも主に地下水を経由して火山体深部からの物質供給があることが既存の分析や研究から明らかになっている(猪狩ほか 2018, 鈴木・田瀬 2010)。吾妻川本川では、温川合流点までは300μS/cmを上回っているが、合流点以降は200μS/cmを示しており、低いECを示す支川流入による希釈効果が確認できる。沼尾川は500μS/cmを超えているが、これは沼尾川途中に存在する伊香保温泉の流入が影響していると考えられる。
今後、吾妻川下流域河川の溶存成分や流量等も考慮した負荷量を算出するとともに、流域の土地利用や地質、火山活動の形態・履歴を整理し、定量的な物質収支の評価のために分析・検討を進める。
参 考 文 献
1) 猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希 (2018):浅間山周辺地域の水環境に関する研究(4), 日本地理学会発表要旨集, 2018s, 512.
2)猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希(2019):草津白根山周辺水環境の水質特性と温泉排水・坑排水の影響, 日本火山学会講演予稿集, 2019, P081.
3)都築達矢, 木川田喜一, 大井隆夫 (2011):吾妻川中流域の水質に対する草津白根火山地域の温泉水・鉱山排水の影響, 58, 253.
4)鈴木秀和, 田瀬則雄 (2010):浅間火山の湧水の水質形成における火山ガスの影響と地下水流動特性-硫黄同位体比を用いた検討-, 日本水文科学会誌, 40(4), 149-162.