日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P039
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鬼怒川源流域における針広混交林の林分構造と斜面方位との関係
*長田 強志森島 済
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抄録

1. はじめに近年,温暖化によって,気候的な境界域に成立する森林の変化が報告されてきている(Hiura et al 2019)。亜寒帯と冷温帯の境界域に成立する針広混交林では,林内の広葉樹が増加しており,この傾向は今後も継続するとされる。日本における針広混交林の時間的変化に関する研究は北海道で多く,本州の山岳を中心に分布する針広混交林での調査は少ない。山岳域は,斜面方位や傾斜が多様となり,それらの違いが日射や,積雪,残雪,土壌水分などの差を生み出し,それぞれ特有の植生を成立させる(菊池 2001)。このことからも,山岳地における温暖化による影響を地形的な特性も踏まえて議論する必要がある。本研究の調査地域である栃木県奥鬼怒は,斜面方位による生育樹種の違いが明瞭な地域であり,織戸ほか(1986)は,日射量が少なく,雪の保護を受けると考えられる北向き斜面にブナ林が多く,逆に日射量が多いと考えられる南向き斜面にはミズナラ林が卓越することを示している。本研究では,この様な斜面によって大きく植生が異なる地域において,温暖化による植生の時間的変化を把握し,山岳域特有の地形的特性がその変化プロセスに与える影響を明らかにする。2. 研究対象地域と手法本研究は,栃木県日光市川俣に位置する手白山北西斜面(北緯36°51′東経139°24′付近)を対象としている。北西斜面の地形的特性を把握するために,5mDEMから斜面方位を求め,斜面をN,NE,E,SE,S,SW,W,NWを中心として22.5°毎に分割した。この結果と,1976年の空中写真判読による針葉樹,広葉樹の計測結果(長田・森島 2024)を対応させ,標高,方位毎に単位面積当たりの樹木本数を求めた。さらに,過去と現在の林分構造を比較するために,2022年の毎木調査の結果(長田ほか 2023)を同様に斜面方位と対応させ,1976年と2022年の林分構造を比較した。空中写真判読の結果と毎木調査の結果を比較する際,判読誤差や分解能の違いから取得できるデータが異なることが予想されたが,判読した空中写真は10月に撮影され,対象地全体に紅葉が確認できることから,樹高が低い広葉樹も判読していると考え,毎木調査で計測したすべての樹木を比較に含めた。3. 結果と考察手白山北西斜面は主にN,SW,W,NWの4つの方位から構成されていた。判読した樹木の生育箇所を方位に対応させると,北西斜面の樹木は,N向きに1147本(22%),SW向きに334本(7%),W向きに1109本(22%),NW向きに2329本(45%)生育していた。標高帯毎に生育する樹木をみると,最も下部である標高1350m-1400mで針葉樹と広葉樹の本数は同程度であり,それ以上の標高帯ではすべて針葉樹が優勢な林分となっていた。針広混交林部(1350m-1550m)での単位面積当たり(2500㎡)の樹木本数を求めると,針葉樹は,6.6本(N),4.1本(SW),6.1本(W),6.4本(NW)であり,広葉樹は,3.5本(N),4.8本(SW),4.2本(W),4本(NW)となっていた。4つの方位の中では,SW向き斜面が他の方位と比較して針葉樹が少なく,広葉樹が多いという傾向がみられた。1976年と2022年の比較では,1976年は1550m地点(下部),1650m地点(上部)共に針葉樹が優勢であるのに対して,2022年では針葉樹と広葉樹の比率が逆転しており,広葉樹優勢の林分に変化している様子がみられた。調査地点の斜面方位は,1550m地点がSW向き斜面に1650m地点はNW向き斜面に属していた。特に1550m地点は広葉樹の生育が旺盛であり,8割の樹木が広葉樹となっていた。

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