1. はじめに
中国の大卒(大専を含む)以上の学歴を持つ者の就職は近年、厳しさを増している。また、中国の東部と西部で経済格差は決して小さくなく、とりわけ、西部各省の省都から離れた地区では、経済発展が遅れていることが少なくない。なかでも、本研究の対象とする雲南省は省都昆明とその周辺を除いて、産業が充実しているとはとても言い難い状況である。加えて、雲南省では少数民族住民がおよそ3分の1を占め、自治州や自治県が設定された民族地区は省面積のおよそ3分の2を占めている。これまで、中国の大学生の就業は経済学を中心に多くの研究がある。その一方で、農村住民を対象とした研究のほとんどが出稼ぎ労働者と言われる人々で、実質的にほぼ非大卒を対象とした研究であった。つまり、農村出身大卒者を対象とした彼らの就業はほとんど研究されてこなかった。そこで、本研究では雲南省のペー族の1村落を事例として、同村出身の大卒者85人の就業傾向について検討を加える。今回は戸籍の所在地と関係なく、まだ財産分与を行っていない者、または財産分与を行った結果、村に資産を保有している大卒者を対象とした。(男女問わず)婚出したり、村には戻ってこないことを前提とした財産分与を行ったりした者は聞き取り対象から除外した。そのため、調査対象は20-30歳代が中心となっており、近年の就職状況を反映している。
2. 中国の大卒就職活動と少数民族
中国の就職活動は日本と比べると、学生が就職活動を本格的に開始する時期は遅い。その要因は中国の大学が(一部を除き)全寮制を取っており、その管理が比較的厳しいためであるとみられる。各大学は近年、学生の就職に非常に力を入れるようになってきているが、思うような結果になっているとは言いがたい。公務員や事業単位(国公立の病院、学校など)では博士号保持者を除いて、就職試験を原則、実施しているが、1000倍を超える高倍率も当たり前の状況となっており、非常に狭き門となっている。その一方で、民族地区には「少数民族枠」があり、一定の優遇が存在するが、そちらも試験になれば、数十倍程度の倍率が付くことも少なくない。他方で、国有企業は一部を除いて、民間企業同様の選考方法を実施している。
3. 村出身の大卒者の就業傾向と就業地
職業別では、医療従事者や日本でいうところの事務職が12人(14.1)と同じ割合でもっとも多かった。また、エンジニア(工程師)も多く、11人(12.9%)であった。また、昨今、人気の公務員も少なくなく、10人(11.8%)を占めていた。また、調査対象村の非大卒住民の農外就業で最も多い建築業と関連する就業は、建築士が5人(5.9%)と少数にすぎなかった。次に、彼らが就業している組織をセクター別に分類すると、全体の半分以上が行政機関・事業単位・国有企業といった公共セクターに勤めていた。この理由として、雲南省は産業があまり発展しておらず、目立った民間企業が少ないことと、民族地区において、少数民族籍の住民の公共セクターでの就業に一定の優遇があることが要因だと考えられる。彼らの就業地は雲南省内で就業する者が89.4%(77人)と9割弱であり、省内で就業している者77人のうち、昆明市と大理州が省内での就業がそれぞれ33人(43.4%)および25人(32.9%)を占めており、第3位以下との差は大きく開いていた。これらの結果は非大卒者の就業と就業地選択(雨森2023)との関連性が極めて薄いことを示していた。また、就業地と公共セクターとの関係では地元から近いと公共セクターが多く、そこから離れれば離れるほど、公共セクターでの就職が少なくなり、民間セクターの就業割合が増えていた。これは民族地区の特殊性に加え、すでに公然のことではあるが、「関係」が強い地元ほど、公共セクターでの就職がより有利となっていた。
4. おわりに
村出身大卒者の就業は公共セクターを好む傾向が非常に強かった。そして、それはある程度、実現できていた。彼らの就業地は地元に近い方が、より公共セクターでの就業が多く、それは「関係」によるものとみられた。他省での就業では、公共セクターに就職することは難しく、民間セクターでの就業が増えていた。就業地は民間セクターであっても、また給与水準が低くても省内での就業を望む傾向は強く、省外での就業は少数に留まっていた。