日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P040
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ポイント型人流データに基づく令和6年能登半島地震における被災者の行動分析
*田中 耕市
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抄録

I.研究の背景と目的

2024年1月1日16:10に,能登半島地下16kmを震源とする令和6年能登半島地震が発生した.震度は能登半島北部の広範囲で6を観測し,輪島市および志賀町では7に至った.直下型地震による大きな揺れは広範囲における地滑りや液状化現象,津波など,地域によってさまざまな災害をもたらすことになった.建物の崩壊も随所でみられ,特に輪島市の朝市通りでは火災が発生して被害が拡大した.

本発表では,被災地域の住民およびそこに居合わせた人々が,被災直後からいかなる移動行動をとったのかを,ポイント型人流データによって空間的に明らかにすることを目的とする.上述のように,同地震ではさまざまな災害が発生したうえに,元旦のために住民以外の帰省客や,現地に明るくない観光客も多く被災したという,前例があまりみられない事例となった.このよう特殊な状況下で,被災者がいかなる移動行動をとったのかを空間的視点から明らかにする.

これまでの災害時の人流分析には,メッシュなどを地区単位としたデータが使用されることが多かったが,その場合にはそのメッシュ内のどこにいるかを厳密に明らかにすることはできなかった.本発表で用いるポイント型データでは,GPS計測による多少の誤差はあるものの,滞在場所をピンポイントで把握することができる.

Ⅱ.対象地域と使用データ

本発表では,主に能登半島北部4市5町(七尾市,輪島市,珠洲市,羽咋市,志賀町,宝達志水町,中能登町,穴水町,能登町)を対象地域とする.人流データには,Agoop社のポイント型トリップデータを用いた.これは,スマートフォンのアプリから取得した位置情報を,最短で1分単位で把握することが可能であり,1日ごとにユーザーに振られるデイリーIDによって移動行動を追うことができる.2024年1月1日については,対象地域におけるポイント数は約27.8万に及び,約4千人分の移動記録が確認された.それらのうち,位置情報の精度が高く,分析に耐えうるポイント数があるデイリーIDを抽出した.そのほか,デジタル住宅地図のZMapTownIIを活用することにより,被災者が滞在した施設等を判別した.

Ⅲ.データの概要と被災者の移動行動

地震発生当日に対象地域において確認されたデイリーIDのうち,半数以上は対象地域以外の居住者であり,最も多かった居住地は金沢市であった.能登半島北部のA地区では,地震発生からの1時間(16:10~17:09)において,指定緊急避難所への避難行動のほか,緊急対応による役所職員の登庁や,被災箇所への救助活動に向かう行動と推察されるさまざまな行動パターンが観察された(図1).

謝辞 本研究はJSPS科研費JP23K22037,23K00984,および東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究(研究番号1243)の成果の一部である.

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