主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
研究背景と目的
立山は、火山活動と氷河変動の時期が重なっていることや多雪で氷河が多く発達していたことなどから、氷河研究が盛んに行われてきた地域のひとつである(川澄 2000)。その中でもかつての立山火山が形成した室堂山北側斜面では、ロッシュムトネと氷河擦痕の存在が報告されていたが(小泉・清水 1992)、詳細な調査は行われてこなかった。ロッシュムトネとは、氷河の侵食を受けて発達する岩盤が削り残された丘状の地形であり、形状の特徴や表面に残された氷河擦痕から氷河の流動方向などを復元するのに有用である(Benn and Evans, 2010)。本研究では、とくに室堂山地域のロッシュムトネの分布と氷河擦痕の方位について調査を行った。
方法
室堂山と国見岳の間にある氷食谷で現地調査を行い、39か所の擦痕方位を計測した(図1)。また、空撮ドローンとLiDARドローンによって地上解像度10 cmの数値標高モデル(DEM)と地上解像度1.7 cmのオルソ画像を取得し、ロッシュムトネの分布をマッピングした。
結果
現地調査により、擦痕方位はおおむね北~北北西向きであるものの、その場の微地形に沿う擦痕も存在することが確認された。擦痕方位は、基盤となる玉殿溶岩の流理とは異なった走向を示した。支尾根上にも擦痕が分布し、とくに東側斜面に多く残っていることが分かった。また、規模が数10 m程度の比較的大きなロッシュムトネは、標高2520 m~2580 m付近、約4万年前に噴出した玉殿溶岩上に多く分布をしていることが明らかになった。これは、立山火山付近で観察されるMIS2(海洋酸素同位体ステージ2)における立山亜氷期Ⅱ・Ⅲのモレーン位置よりも100 mほど高い標高にある。
考察
擦痕の分布とその方位から、氷河は①室堂平の方向へ流動しており、②地形面全体を覆う程度の大きさでありながら谷を掘り込んで地形を改変するほどの侵食力は持っていなかったことが示唆される。さらに、ロッシュムトネはおもに玉殿溶岩上に多く存在すること、モレーンよりも100 mほど高い位置に分布していることから、氷河の発達は4万年前以降であり、ロッシュムトネの形成時期は立山亜氷期Ⅱ・Ⅲに対応すると考えられる。