日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P047
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浜堤平野の前進と海水準変動
*堀 和明丸山 愛太田村 亨石井 祐次清家 弘治中西 利典洪 完
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抄録

はじめに 波浪卓越型の沿岸域では,複数の浜堤と堤間湿地で構成される浜堤平野が発達する.日本の浜堤平野では,浜堤列が3列あるいは4列に大別され,その形成が完新世中期以降の海水準の微変動との関係で議論されてきた.2000年代に入ると,コア堆積物の堆積相解析や加速器質量分析装置を用いた放射性炭素年代測定によって,過去の海水準指標となる前浜堆積物の認定やそれを用いた相対的海水準変動の復元手法が提案されるようになった(増田ほか,2001).さらに,浜堤堆積物に含まれる石英や長石のOSL年代測定が世界各地で盛んになっている(Murray-Wallace et al., 2002).本研究では,海溝型地震の震源域近くに位置し,複数の浜堤が分布する仙台平野南部(阿武隈川以南)を対象に,平野の形成・前進と海水準変動との関係を議論する.

方法 仙台平野南部に分布する浜堤の4地点(W1–W4)において掘進長各10 mのオールコアボーリング,また,9地点(MM1–MM9)においてサンドオーガを用いた堆積物採取を実施した.採取したコアは暗室において半裁後,写真撮影,CT画像撮影,色調,湿潤および乾燥かさ密度,帯磁率の測定をおこなった.10 cmごとに堆積物を篩い分けて礫・砂・泥の比率を算出し,砂について粒度を分析した.また,長石を用いたOSL年代測定,貝殻片や有機物の放射性炭素年代測定を実施した.サンドオーガで採取した堆積物についても,礫・砂・泥の比率の算出,砂の粒度分析,OSL年代測定をおこなった.

結果と考察 コア堆積物は層相にもとづき,下位から下部外浜,上部外浜,前浜・後浜,耕作土に区分した.前浜・後浜堆積物からは,W1で約6 ka,W2–W4で約4000–1000年前のOSL年代が得られた.貝殻片の放射性炭素年代はOSL年代に比べると古い年代を示した.また,MM1–MM9のOSL年代はW1–W4のOSL年代と調和的であった.下部外浜上端付近から前浜・後浜にかけての堆積は数百年以内に生じており,堆積が急速に進んだことが推定される.さらに,W2からW4の堆積曲線の傾きに大きな差がないことから,1000年オーダーでは,4000年前以降,海浜の縦断形がほぼ一定の状態で海岸線の前進が生じたと考えられる. 前浜・後浜と上部外浜堆積物との境界は,最も陸側のW1では標高1.2 mだが,W2で−1.39 m,W3で−1.54 m,W4で−1.91 mとなっており,W1は他地点に比べて高い.仙台平野北部において,前浜・後浜と上部外浜堆積物との境界は,W2からW4と同様に現海水準下に認定されており(Tamura and Masuda, 2005),海水準とくに低潮位付近に形成されると考えられることから,W1とW2–W4との間にみられる標高差を生じさせた要因として,次の二つの可能性,1)W1形成後のユースタティックな海水準低下,2)陸側が海側に比べて隆起するような地殻変動の発生(海水準の相対的低下),が挙げられる. ユースタティックな海水準は,完新世の中では現在が一番高いと推定されている(Lambeck et al., 2014)ことから,1)の可能性は低い.2)に関して,グレイシオハイドロアイソスタシーを考慮した相対的海水準変動の推定(Okuno et al., 2014)によると,仙台平野では6 ka頃に海水準が現在に比べて約1–3 m高い位置に達し,その後,徐々に低下している.したがって,グレイシオハイドロアイソスタシーが標高差に影響している可能性はある.岡田ほか(2017)は,仙台平野南部において反射法地震探査や重力探査を実施し,低地下にC級の伏在活断層が存在することを明らかにしている.そのうちの一つであるF1断層浅部は,W1とW2の間に位置しているため,断層運動にともなう変位が標高差に寄与している可能性もある. 一方,仙台平野北部において,有機物や貝殻片の標高・放射性炭素年代値にもとづいて推定された海水準変化図(小元・大内,1978)では,6000 14C yr BPの高海水準は認められておらず,海水準は小さな振動を繰り返しながら現在に達している.今後,地殻変動やその地域差,地殻変動の要因についてさらに検討する必要がある.

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