日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 434
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地方自治権と生態系サービス
沖縄県への在日米軍基地の集中とその環境影響に対する問題意識に基づく考察
*廣瀬 俊介
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抄録

地方自治法は、地方公共団体が「住民の福祉の増進を図ること」を「基本」とし、「民主的で能率的な行政を図る」ことを目的とする。しかし、日本では、特に沖縄県への米軍基地の集中とその環境影響に見られるように、憲法に規定された地方自治の追求が国に制約される矛盾がある。沖縄県は、県民投票条例に基づく2度の民意の提示を含めて、米軍基地の集中による負担の軽減を求めてきているが、国は応じていない。2024年の第213回国会では、地方公共団体への「国の指示権」を含む改正地方自治法が成立した。国は、実質的に地方自治への制限を強めていると考えられる。

近年の沖縄県での辺野古新基地建設による環境破壊や、同県と神奈川県、東京都の米軍基地周辺で高濃度の有機フッ素化合物、PFOS・PFOAが検出されたことから明らかにされた環境汚染は、人間の生存環境の侵害に当たる。これらの問題は、日本国憲法25条 (生存権) 、13条 (幸福追求権) に照らして検討されてきた環境権に抵触する。憲法の両条と、人間の生存環境の侵害を防ぐ環境権は、地方自治の基本とされる住民の福祉の増進の根本に位置する。環境権の保障は、人間が生態系から得る便益「生態系サービス」の保持から可能となる。

こうした背景を踏まえて、本研究では、地方自治の独立性を保つ意義を、沖縄県への米軍基地の集中とその環境影響に対する問題意識に基づいて検討した。生態系サービスは、住民の福祉の増進ひいては人間の安全保障の基盤となり、地域の生態系サービスは各地で保持に努められる必要がある。このことは、地方自治の独自性を保つ重要な意義に数えられる。

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