今日,地方移住への政策的な関心が高まっている。国家レベルでは,東京一極集中の是正策として注目されている一方,市町村のレベルでは,移住者の奪い合いという面があり,特に近接する市町村間での競合関係が強くなると考えられる。このような中で,都道府県をはじめ両者の中間に位置付けられるスケールの主体はどのような役割を果たしているのだろうか。この問いの解明を目的に,本研究では,兵庫県,県庁の出先機関,ならびに県下の市町が設置する移住相談窓口についての事例調査を行った。
地方自治体の移住促進施策は多岐にわたり,そこには,住宅政策,就業支援,子育て支援など,既存の政策領域を移住希望者にアピールする形で展開されるものも含まれる。移住相談窓口の設置は,そうした他の政策領域に還元されない施策であり,かつ多くの自治体で取り組まれていることから,移住促進施策の代表として取り上げる。また兵庫県は,移住相談窓口を,県本庁のみならず,出先機関「県民局(一部の地域では県民センター)」の一部でも設置していることから,中間スケールでの移住促進施策の意義について考察する事例として適した地域だと考えられる。そこで本研究では,兵庫県の全10県民局・県民センターならびに全41市町を対象に,移住促進施策について尋ねるアンケート調査を行い,その結果移住相談窓口の設置を確認できた県民局や市町に対して,インタビュー調査を行った。
アンケート調査によると,兵庫県の全41市町のうち,32市町が移住相談窓口を設置しており,そのうち11市町で運営を外部に委託している。窓口を設置していない市町は阪神地域や東播磨地域といった,大都市圏郊外地域に見られる一方,窓口を外部委託している地域は,但馬地域や丹波地域などの北部で目立つ。外部委託には,休日対応やノウハウの蓄積が可能になるといったメリットがあり,その自治体が移住促進に力を入れていることの表れと見ることができる。県民局・県民センターでは,北播磨,西播磨,但馬,淡路で移住相談窓口が設置されており,このうち北播磨を除く3県民局で外部委託がなされている。
外部委託を行っている西播磨,但馬,淡路の3県民局の移住相談窓口は,東京や大阪で開催される,全国的な移住促進イベントにブースを出展することが多い。こうしたイベントでは,移住促進に力を入れている市町もそれぞれブースを出すが,参加が難しい市町であっても,県民局のブースを通じて,移住希望者とのつながりを持てる可能性がある。特定の県民局のみで行われている取り組みもあり,西播磨県民局では,空き家バンクが運営され,移住の重要な誘因として位置づけられている。市町の多くも空き家バンクを運営しているため,西播磨地域には空き家バンクが二重に存在することになる。一方,但馬や淡路では,空き家バンクはもっぱら市町が担い,県民局は関与していない。淡路県民局では,移住者への支援等の施策を淡路地域の3市で比較することのできるリーフレットを作成しており,県民局だけでなく,市の移住相談窓口でも活用されている。以上を踏まえると,県民局の設置する移住相談窓口は,移住促進施策を十分にできない市町を補完する役割を果たしているといえるが,県民局と市町は必ずしも連携しているわけではなく,並行して存在している状態に近い。特に,すでに一定程度移住促進に取り組んでいる市町にとっては,あまり意義のある存在とは映らないかもしれない。しかし,このことは,地方移住の性格を考えると,不合理ではないのかもしれない。東京圏出身者がさまざまな「地方」から移住先を選ぶにあたっては,偶然や属人的な要素が大きいと考えられ,それを促すには多様な主体が関与するほうが望ましいと考えられるからである。移住相談窓口において,兵庫県の県民局は,市町の役割を補完しつつも,ある意味では市町と同格の存在として地方移住全体の促進に貢献しているとみることができる。