日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 204
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関東平野で発達する「寒気せき止め現象」の大気構造の多様性
*仙石 和正高橋 日出男
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抄録

“寒気せき止め現象(cold-air damming, CAD)”とは,山脈の東側沿いに,北風を伴いながら幅100 kmスケールのまとまった寒気層が発達する現象である.CADは関東平野で時折発生し,首都圏での降雪や沿岸域での大雨などに関わることがある.

 CADは,従来から“山脈が冷たい東風をせき止める現象”として知られてきた.一方で,CAD出現時の関東平野では地上で北~北西風が卓越する場合も多く,大気構造は従来の認識と必ずしも整合しない.そこで本発表では,CAD出現時の関東平野における地上風系をもとにCADの構造の多様性を議論する.

 まず,5地点の気象官署(福島・高田・熊谷・銚子・静岡)の時別気温,気圧観測値を用いて,1991~2020年から計387事例,8,047時間のCAD出現時間帯を抽出した.次に,関東平野のAMeDASの時別風観測値を用いたクラスター分析によって,CAD出現時の地上風系を類型化した.そして,客観解析データを用いた合成解析や,季節・時刻・降水の有無に対する出現頻度の統計分析を行った.

 CAD出現時の地上風系は,3つに類型化された.各類型の関東周辺における地上気温・気圧・風の場の合成解析結果(図1)によると,北東風が関東北東沖から内陸地域へ侵入する構造(北東風型,16%),北東風が平野東・南部まで及ぶ構造(中間型,47%),北~北西風を伴う低温な内陸寒気が,平野のほぼ全域を覆う構造(内陸寒気型,37%)が認められた.

 統計分析結果によると,内陸寒気型は寒候期に多く現れ,とりわけ夜間や降水時といった,陸面で寒気が維持されやすい環境で高頻度である.

 以上の結果から,冷たい東風よりも強力な寒気が山脈東側で発達している状況で,従来の認識と異なる構造である内陸寒気型CADが現れると考察される.

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