Ⅰ.はじめに
近年,日本各地で大規模な地震が発生し,甚大な被害が生じている.かねてより発生が懸念されている南海トラフ地震では,死者数は5万〜27万5千人,全壊及び焼失棟数は95万〜237万棟の被害が想定されている(内閣府).その被害想定地域の内,地震発生源の南海トラフに最も近い和歌山県串本町では,地震発生時に約3分で波高1mの津波が到達し,最大波高10m,死傷者9390人,全壊5500棟,半壊4100棟と予測されている(串本町総務課).
そこで本研究では,密集市街地となっている串本町の串本地区を対象とし,そこに居住する住民約3千人の津波被害を軽減するために,津波避難困難区域の潜在的リスク及び特性を明らかにする.
Ⅱ.調査・分析方法
基盤地図情報の5mDEMデータを利用して,串本地区の微地形分類を行った.また,国土数値情報の道路データを利用し, GISを用いて地区内の道路幅員を幅1〜2m,2〜3m,3〜4m,4〜6m,6m以上の5種類に区分した.そして,4m未満の狭隘道路に沿って建てられた危険ブロック塀の分布図を作成し,津波避難困難区域の特性として,以下の点が明らかになった.
Ⅲ.結果
(1)砂州の地形的特徴
串本地区の密集市街地となっている低地は東方に緩やかに傾斜する標高4〜6mの陸繋砂州とされている.しかし,微地形分類の結果,砂州の西側には,標高13〜22mの基盤岩からなる複数の高まりが存在し,低地は標高9m以下の4段の地形面に区分できる(図1).串本の陸繋砂州は,過去の南海地震との関連で,地盤が隆起して形成された可能性がある.
(2)狭隘道路の形成
串本地区の密集市街地には,幅員4m未満の狭隘道路が多数見られる.これらの道路は江戸時代から形成されてきた街区や地形を利用しており,入り組んだものになっている.
(3)危険ブロック塀の分布
密集市街地には,1946年以降に建てられた高さが1.8m以上の危険なブロック塀等が多数分布している.これらのブロック塀は,コンクリートブロックやレンガ,切り出し石で作られ,狭隘道路の片側または両側に見られる(図2).
(4)串本町の津波ハザードマップの現状
調査地域のハザードマップには,避難場所までの避難路の記載がなされておらず,避難所の収容人数や標高値が不明で,実用的ではない.
Ⅳ.考察
調査区域内は,もともと利用可能な土地が限られ,特に戦後の復興期を経て,密集し入り組んだ幅4m未満の狭隘道路が形成された.そして,その狭隘道路に沿って危険なブロック塀が多数建てられている.そのため,津波緊急避難時には,ブロック塀が倒壊し,避難が困難になると懸念される.
一方,実際に避難で使用できるのは,国道を除くと,地区を東西に横断する道路が2本,南北に縦断する2本の道路のみである.南北に移動できる道路は整備が進んでいないため,今後は円滑に避難できる道路の整備と,串本地区中心部に津波避難施設を設置するなどの対策が急務と考える.