はじめに/研究目的・方法 開花や落葉、鳥の渡りのように、植物や動物の状態が季節によって変化する現象を生物季節現象という。気象庁では1953年に全国102地点で生物季節観測を開始し、各地気象台が独自で選択した種目を含めて、これまでに植物41種目、動物24種目が観測されてきた(吉野2004)。このデータを用いて植物季節と気候要素との関係性を明らかにした研究として、松本(2017)はサクラの開花日と気温上昇の関係を示した。これまで、サクラ以外の植物の開花に関する研究が少なく、特に各種の生物季節現象がどの月の気温と関係が強いのか明らかになっていない。また、九州や四国のような温暖な地域では春先の開花や満開が遅延化する傾向が指摘されている(大西 2012)が、日本の各地点ごとに気候要素の影響がどのくらい異なるのか明らかになっていない。さらに、厳冬暖冬、猛暑冷夏のような特異年と植物季節の関係も不明である。 そこで本研究では、春に開花するウメ、サクラ、ツバキの近年の開花について、①どの月の気温との関係が強いのか、②同じ植物種でも地点ごとに気候要素の影響がどのくらい異なるのか、③特異年が植物季節に対して、どのように影響するかを明らかにする。これらの研究対象種は、生物季節観測が連続して実施された地点が多く、経年変化や地点ごとの差異、種ごとの気候応答の差異を検討するのに適していると考えられる。本要旨ではウメを取り上げる。 結果:ウメの平均開花日と特異年との関係性 本研究では、1953年から2023年までの71年間のうち、57回以上(80%以上)ウメの開花日を記録している50地点を抽出した。ウメの開花は開花3か月前までの月平均気温との相関が高い(増田ら1999)。1953 年から2023年における、1月1日を起算日としたときの全国50地点のウメの平均開花日(DOY:Day Of Year)は31~75日、中央値は48日だった。そこで、全国50地点について、ウメの平均開花日と12月~2月までの3か月平均気温の経年変化のグラフを図1に示す。1987年以降、12月~2月平均気温が顕著に低い年はほとんどみられなくなり、開花日が早まっている。図2に全国50地点の1953~2023年におけるウメの平均開花日と12月~2月平均気温の散布図を示す。相関係数は-0.854で、ウメの開花日が遅いときは12月~2月の気温が低いという強い負の相関がみられた。ただし、各地点別の分析では相関係数が高くない地点もみられた。これらの詳細は当日報告する。(本研究はJSPS科研費補助金(24H00118)を使用した。)[文献] 増田啓子・吉野正敏・朴恵淑 1999.生物季節による温暖化の影響と検出.地球環境 4(1・2): 91-103.松本太 2017.近年におけるサクラの開花と冬季の温暖化 日本生気象学会雑誌 54:3-11.吉野正敏2004.『日本の気候第Ⅱ巻』二宮書店.