日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 235
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芦生研究林上谷支流の降雨流出に地質条件が及ぼす影響
*稲岡 諄福島 慶太郎小杉 賢一朗
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抄録

背景・目的

 近年, 気候変動に伴って土砂災害の発生頻度が増加しており, 社会問題となっている. 一方で, 緊急度の高い箇所を抽出した, 効率的で効果的な砂防事業が求められている. 発表者らは土砂災害発生時の地下水集中に注目し, 地下水が集中しやすい流域の抽出方法を研究している. 本研究では山体内部での地下水挙動に関する仮説4)を2次以上の高次流域(以下、高次流域)である芦生研究林上谷支流に適用し, 高次流域の流出特性を説明可能か検討した.

方法

 研究対象地は京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林(京都府南丹市)内に位置する上谷の3つの支流(東からU流域, K流域, M流域)である. この地域は冷温帯と暖温帯の移行帯に当たり, 貴重な原生林が広がっている. 下層植生はU流域で最も多く, M流域, K流域の順に少なくなる. 地質は丹波帯古屋層の砂岩泥岩互層からなる1) 2). また, 年平均気温は10.1℃, 年平均降水量は2609 mmであり5), 冬季には2-3 m程度の積雪がある3).

 現地踏査の結果からこの地域の平均的な基岩の走向・傾斜はそれぞれN 124.8° E, 32° Nと決定された. また, 3つの高次流域で約2年間流量を観測した.

 本研究では高次流域を1次谷の集合体として捉え, 各1次谷に流下方向と基岩の走向・傾斜の関係から推定される流出特性の分類4)を行った. 1次谷はSurfer(Golden Software社製)を用いて分割し, 現地踏査の結果から流域を定義する閾値は3500 m2とした.

結果・考察

 3流域の観測流出波形からM流域において基底流が少ない傾向が確認された. 各流域内における地形湿潤指数の分布を計算すると3流域とも似た分布であったことから, この流出の差は地形の差によるものではないと考えられた. また, 観測結果の解析からは基底流量はU流域において最も多く, K流域、M流域の順に少なくなり, 植生の影響も大きくはないと考えられる.

 各流域の内部を1次谷に分割して流出特性を推定すると, 走向方向に延びる流域の面積率が最大なのはM流域であった. 走向方向の流域は地下水が集中し, 基底流が大きくなると報告されている4). 従って, 高次流域を1次谷に分割し, 推定される流出特性の単純な面積比率から高次流域の流出特性を推定することは難しい可能性が示唆された.

 ここで, 山体内部の地下水挙動4)をある山頂を中心とした山体の降水量の分配方法と捉えると, 各高次流域に流域外で隣接する1次谷まで考慮する必要があると考えられる. そこで, これらの流域の流出特性を推定し, 同一山体に位置する1次谷の間では走向方向の流域への地下水移動が起こる4)と仮定すると, 各高次流域の流出寄与域が想定できる. 山体内部の地下水量は山体体積に影響されると考えられ, 各高次流域において表面地形による流域平均比高と実質的な流域平均比高を計算した. 流域平均比高は山体体積を流域面積で割ることで求まる. これらの指標と各流域の基底流量との決定係数を求めると, 地下水移動を考慮しない場合は0.0789, 地下水移動を考慮した場合は0.7028となった. 従って, 山体内部の地下水挙動に関する仮説4)を高次流域に拡張して適用する際は, 隣接する1次谷との間の地下水移動を考慮して流域平均比高を求めることで高次流域の基底流量をより良く説明できる可能性が示唆された. 本研究では高次流域を3つしか扱っておらず, また, 各1次谷の流出特性等の詳細な観測も行っていないため, 今後の詳細な観測や他の堆積岩山地における適用によって更なる普遍性の検証が必要である.

謝辞 本研究で使用した地形図と雨量データは京都大学芦生研究林にご提供いただきました. また, 本研究は科研費(20H00434), JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2110の支援を得て実施しました. ここに記し感謝いたします.

参考文献 1) 中江・吉岡 1998. 1/50000地質図「熊川」. 地質調査所. 2) 中江ら 2022. 1/200000地質図「宮津(第2版)」. 産総研地質調査総合センター. 3) 福島ら 2014. 日本緑化工学会誌 39: 360-367. 4) Inaoka et al. 2020. Hydrological Processes. 34: 5567-5579. 5) Nakagawa et al. 2020. Ecological Research 35: 733-741.

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