Ⅰ はじめに
東京近郊の河川は高度経済成長期に多くが生活排水等の流入により激しく汚濁された。今日では水質汚濁防止法等の法整備や、下水道の整備により多くの河川において水質は改善傾向にある。しかしながら、現在でも下水道の整備等が遅れている地域では、汚濁の残っているところもある。本研究では東京近郊を流れる代表的な大河川の多摩川と荒川において、同程度の流域面積を持つ支流2流域を選定し、水質観測とその結果の過去の先行研究との比較から、東京近郊大河川支流の水質の変化とその要因について考察する。
Ⅱ 地域概要
研究の対象地域として多摩川水系浅川と荒川水系市野川を選定した。多摩川水系浅川は東京都八王子市、日野市を流れる一級河川である。1960年代以降、生活排水等により汚濁が進行した。下水道の整備により水質は改善したが、下水道が整備できない上流部に浄化槽からの排水による汚濁が残る河川である。荒川水系市野川は、埼玉県寄居町、小川町、嵐山町、滑川町、熊谷市、東松山市、吉見町、川島町を流れる一級河川である。農業の影響や下水処理場からの排水により汚濁の残る地域があることが報告されている河川である。
Ⅲ 研究方法 多摩川水系浅川では、2020年6月~2021年9月にかけて月に1回の頻度で浅川流域内の34地点において河川水のサンプリングを実施し、現地で水温、電気伝導度、pHの計測を行った。サンプリングした河川水のうち、2020年7月、10月、2021年1月、9月のものは島津製作所製のイオンクロマトグラフィーを用いて主要溶存成分の計測を行った。荒川水系市野川では、2023年6月~2024年6月にかけて月に一回の頻度で流域内の37地点において河川水のサンプリングを実施し、現地で水温、電気伝導度、pHの計測を行った。サンプリングした河川水のうち、2023年9月のものは島津製作所製のイオンクロマトグラフィーを用いて主要溶存成分の計測を行った。
Ⅳ 結果と考察 多摩川水系浅川においては、ECは上流においては値が低く、変動係数も小さいが、下流に行くにつれてECの値は上昇し、変動係数も大きくなる傾向にあった。一方、荒川水系市野川では、ECは流域の中流部で高く、下流では中流と比べると比較的低いという結果になった。市野川では下流でECの低い支流が合流することによりECが低下しているとみられる。また、市野川では100mS/mを超える値を観測した地点がみられたが、浅川ではそのような高ECを観測した地点は見られなかった。市野川では排水処理が十分に行われていない地域もあり、汚染源の特定が求められる。
Ⅴ おわりに
浅川と市野川では水質指標の分布の傾向に違いがあることが明らかとなった。今後は流域の地理情報の解析から、さらなる流域特性の把握が求められる。
参考文献
小田理人・小寺浩二(2023): 多摩川水系浅川の水質及び流域特性 : 東京近郊河川の局所的汚濁について,水文・水資源学会誌,36 (4), 269-285.