主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2024/03/19 - 2024/03/21
1 はじめに
駒澤大学図書館には,故多田文男教授旧蔵の地図が多数所蔵されている。そのうち外邦図については目録が刊行され、ある程度周知されているが、国内官製地図などその他の地図は未整理の状態が続いていた。しかし、1年ほど前より整理が進められ、最近、その作業が完了した。本発表は、その整理作業で明らかになった国内官製地図の概要と、その中で見つかった稀覯図について紹介するものである。
2 多田文男教授旧蔵資料の整理
多田文男教授は1978年3月に逝去し、旧蔵資料はまとめて駒澤大学図書館に寄贈された。そのうち書籍・雑誌類は、「多田文庫」として整理が完了し、図書館OPACでも検索できるようになっている。しかし、地図類は長く未整理の状態が続き、駒澤大学図書館(2002)に、おおまかな概要が示されたのみであった。その後、外邦図については、2004年から地理学科学生(外邦図研究会、マップアーカイブズ)による整理が進められ、目録も刊行されている(高橋 2022)。一方、国内官製地図などその他の地図類は手つかずの状態が続いていたが、2022年秋、図書館によって未登録地図の整理が始まり、2013年12月に作業が完了した。
図書館の整理は、大きく二つの部分に分けられる。一つは、駒澤大学図書館(2002)の段階で簡単な整理ができていた国内官製地図4334枚(整理完了後、4339枚)である。もう一つは、当時まったくの未整理だった「その他」の地図約1500枚である(正確な枚数は未確認)。後者には、地理学科旧蔵の地図がいくらか含まれている可能性がある。本発表は、前者の国内官製地図について紹介する。
3 多田旧蔵国内官製地図の概要
今回の整理は、駒澤大学図書館(2002)の分類を基本的に受け継いでいる。4339枚の国内官製地図を同じ分類記号・図書記号(291/1265)にまとめ、地図の種類ごとに巻冊記号を付している。内訳は、①五万分一1974枚、②五万分一(紐綴)277枚、③二十万分一260枚、④五十万分一110枚、⑤二万五千分一1024枚、⑥二万分一570枚、⑦一万分一77枚、⑧一万分一(日本地形社)47枚である(同じ図幅の重複は複数にカウント)。発行年代は主に戦前である。二万分一地形図については抜けている図幅も多いが、戦前の国内官製地図の大部分を含んでいると考えられる。なお、日本地形社発行の一万分一地形図は、戦災復興院がつくったもので、これも官製と言える地図である。
4 多田旧蔵国内官製地図中の稀覯図
五万分一地形図には、五万分一迅速測図「盛岡」が含まれる。仙台の第二師団参謀部が明治26年に測量・製版したものである。迅速測図は関東地方の二万分一がよく知られているが、五万分一迅速測図も存在する。国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」サイトの図歴画面には項目がないが、地図検索サイトでは東北地方の地図数十枚が確認できる。また、国立国会図書館には1890年代の図が数十枚所蔵されている(一部は全国Q地図で画像公開)。国土地理院には、明治30年に陸地測量部が製版した同じ図幅があるが、明治26年版にあった士官らの名前は削除されている。
集成五万分一地形図「横須賀第2号」もある。集成五万分一地形図とは、清水(2005)によれば、本土作戦用に参謀本部が昭和20年に作製した地図で、原則として五万分一地形図4面を集成する。国会図書館には50枚以上所蔵されているが、本図はない。本図は房総半島先端部を描くため、例外的に五万分一図1枚の範囲で作製されている。集成五万分一地形図は軍事施設の名称が入っているというが、本図は館山海軍航空隊がなく、戦時改描のあとが見られる。
関東地方以外の二万分一迅速図も2種類含まれる。一つは、伊勢国と記された三重県の地図10枚である。名古屋の第三師団司令部が明治22年に作製している。本図は、「地図・空中写真閲覧サービス」になく、国会図書館にも所蔵されていない。もう一つは、高松及丸亀近傍の図5枚(他に「その他」の地図にも1枚)である。明治20年代、丸亀の歩兵第十二聯隊の作製である。これらは、国土地理院または国立国会図書館に所蔵されている。
5 今後の課題
今後の課題としては、「その他」で整理された地図の全容確認が挙げられる。その中には、国内官製地図も含まれており、上記官製地図と統合して検索できるようにすることが望まれる。また、図書館とは別に地理学科で整理を進めている外邦図の図書館登録も課題として残されている。