日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 643
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地方都市における社会インフラとしてのスポーツ・文化施設の在り方
―官民連携に着目して―
*落合 弥知
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抄録

はじめに

 日本国内では,特に地方部において公の施設の統合や更新が求められており,その維持は,一般のインフラ同様に大きな課題となっている.その中でも,老若男女問わず福祉・健康の増進や文化活動の場を提供する価値のあるスポーツ・文化施設の統合や更新は,再開発やまちづくりのコンテクストでも注目を集めている.

 そこで,本研究は住民の生活の質やウェルビーイングにかかわる施設・サービスをとらえる概念,「社会インフラ」の観点(Klinenburg, 2021)から,官民連携の形で運営される公の施設の在り方を検討した.特に,指定管理者制度を採用する施設に関して,管理者を可視化し,その施設,自治体,地域とどのような関係性を持っているのかを分析した.まず,国内で2000年以降に新設された文化ホール・スタジアムを類型化し,管理者の性質を俯瞰的にとらえた.そのうえで,地方の拠点都市としての役割を持ち,社会インフラへの需要が大きい一方で,財政,人口維持の面で厳しい状況にもあり社会インフラの維持,促進にリソースを割くことが課題となっている北海道函館市を対象として事例分析を行った.具体的には,市内の地域交流まちづくりセンター,函館フットボールパーク,函館アリーナ,はこだてみらい館を対象とした.

Ⅱ 2000年以降の国内における文化・スポーツ施設の設置状況

 まず,2000年以降に新設されたスタジアム・文化ホールについて,収容人数,建設年,所在地の人口規模もとに,管理者として指定されている団体の傾向を分析した.結果,NPOなどの団体が小規模な施設を,経営基盤の安定した民間企業は大規模な施設をそれぞれ受注する棲み分けがみられた.一方で,自治体と密接な関係にある外郭団体などの財団は,施設・自治体の人口規模にかかわらず,一定数で指定を受けており,「民営」の一端を担うことを自治体側から期待されていることが示された.

Ⅲ 函館市における事例分析

 さらに,函館市内の4施設について,施設の目的と,それに対応する価値がどのように提供されているかを,運営状況,自治体・管理者・市民との関係性などから分析し,指定管理者制度による運用の課題を明らかにした.どの施設においても,管理者は共通して地元を拠点とする団体であり,競技関係者や建設時の設計担当など,施設とは何らかのつながりがある一方で,それぞれの施設の運営や,求められるサービスの提供についてのノウハウの有無は多様であった.自治体との関係については,別の事業などで施設運営とは異なる接点を持っている団体はあったものの,自治体との直接的な接点は当該施設の運営事業のみ,というケースもあり,特に後者に関しては,関係性の構築が発展途上である様子がうかがえた.

Ⅳ 考察と結論

 結果,指定管理者制度の運用方針は完全には統一されておらず,制度のメリットをどれほど享受できるかは,施設・担当者など個別の要因に大きく左右されることが示された.そして,制度導入から20年が経ち,公募の形骸化や,社会変動への対応の難しさなども,地方都市特有の課題として顕在化していた.一方で,函館市における聞き取り調査から,運営の現場は,自治体担当者や管理者の,必要なものを届けるという目的の下の行動によって支えられている一面があることもわかった.

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