日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S208
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次期改訂に向けての小中高地誌学習の新たな方向性(総括)
*井田 仁康
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抄録

1.小・中・高校の地誌学習の一貫カリキュラムの必要性

 本シンポジウムでは、2023年春季学術大会のシンポジウムで議論された「次期改定に向けての小中高地誌学習の新たな方向性」を、さらに踏み込んでの議論となる。前回でも課題となったのが、小学校(幼稚園を含む)、中学校、高等学校を貫く地誌学習(カリキュラム)の必要性である。前回のシンポジウムでは、小学校での地方地誌教育を充実させ探究学習を深めていくこと、および中学校・高等学校での動態地誌的学習を推進し、事象の関連性が解明できる地誌学習が提唱された。本シンポジウムでは、さらに地域の枠組みに関する意味づけ、再構成が必要であることが指摘された。いわゆる「同心円的拡大」のカリキュラムが現代の子どもたちの空間認識にあっているのか、さらには「同心円的拡大」といっても、小学校、中学校、高等学校のカリキュラムを一貫してみると、そうはなっていないとの指摘もある。一方で、学校種という縦軸と分野や科目という横軸との結びつきの中で、多面的・多角的な視点からの総合化かが求められる地理的学習として構成されているという指摘もある。その意味でスパイラルになっているともいえるが、いずれにせよ、そこにわかりやすい論理性が示されているわけではない。それがこのような見解の相違を生じさせている要因であるといえる。それぞれの学校種では地誌(地理)学習の論理性が担保されているとしても、小学校から高等学校までの地誌学習の一貫性を論ずる場合には、「同心円的拡大」や「スパイラル」を含みこんだ、カリキュラムの一貫性の背景となる新たな論理性が求められよう。さらには、地誌学習と系統地理学習の関連性を今一度検討し、小学校から高等学校までの地誌学習と系統地理学習の有機的な(場合によっては融合的な)カリキュラム開発も必要となってこよう。

2.未来志向の地誌学習

 今回のシンポジウムでは、地理教育でどのような人間を育てたいかが明確に示された外国の地理カリキュラムが紹介され、また、ESDといった未来志向の地誌学習が必要であることが指摘された。従来の地誌学習は、現状の理解および構造化に重点があった。一方で、何のための学習か、どのような人間を育成したいのかを考えた場合、現状の理解や構造化にとどまらず、持続可能な社会を構築できる人間を育てるためには、未来を志向した地誌学習の必要となろう。このことは知識を軽視しているわけではなく、個々の知識が積みあげられ概念化できることにより、汎用性のある知識の習得が望まれていることを意味している。こうした概念化された知識は、覚えて忘れてしまうような知識ではなく、学校種があがっても活用でき、さらなる高次の概念化された、メタ的な知識となる。地誌学習で得られる知識は、見方や考え方に基づき知識を概念化し、その概念化された知識を活用し、さらに思考を深め、判断力などを培い、社会に貢献できる実行力を獲得できるものでなければならないだろう。

3. ICTの活用における地誌学習

 地誌学習に限らず、教育現場でのICT、特にAIの活用や弊害については喫緊の課題となった。急速な技術進歩に対応した地誌学習の在り方も考える必要性に迫られている。ICTやAIの進歩により、調べ活動が格段に向上した。しかし、地誌の本質を理解していなければICTやAIによる情報に翻弄される可能性もある。持続可能な未来志向の地誌学習では、小学校から高校までの一貫カリキュラムの開発の必要性と、地理的な見方・考え方に基づいた地誌の本質を見失うことのないAIを含むICT活用が鍵となろう。

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