主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2024/03/19 - 2024/03/21
研究目的,使用するデータ
本研究は,デリー首都圏を対象として,2000年代以降に開発が進んだショッピングモールの分布パターンと,ショッピングモールにおけるテナントミックスの状況を分析する.メガ・リージョンとして発展しているデリー首都圏における消費市場の動向の一端を明らかにしたいと考える.
本研究では,株式会社ゼンリンより購入したデータを用いる.デリー首都圏を対象とした,2023年におけるショッピングモールの位置(緯度・経度),建物面積,テナント数,テナント構成のデータである.ショッピングモールの分布パターンを規模別に分析できるだけでなく,各ショッピングモールにおけるテナントミックスの状況を把握することができる.
メガ・リージョンとしてのデリー首都圏
フロリダ(2009)は,メガ都市を中心として,その郊外と隣接する諸都市が結びつき,グローバル経済のエンジンとしての役割を果たす地域のことを「メガ・リージョン」と定義した.先進国だけでなく新興国を含め,世界には40地域あることを指摘し,インドではデリー=ラホールがメガ・リージョンとして,ムンバイ=プネー,バンガロール=チェンナイはメガ・リージョンとして発展しつつある地域と位置づけられている.
岡橋・友澤(2015)では,デリー首都圏をメガ・リージョンとして位置付け,郊外の開発地域を中心として,外資系企業の参入による自動車産業やIT産業の発展と,民間のデベロッパーを中心とした新興住宅地の開発について検討している.さらに友澤(2022)は,農村集落がアーバン・ビレッジに変化し,工場労働者向けのアパートや店舗等が増加している状況も調査・分析し,サバルタン・アーバニゼーションとして考察している.このように,デリー首都圏がメガ・リージョンとして発展しているというフロリダの指摘を受け,郊外地域における産業発展と住宅開発などの状況を詳細に調査・分析して,メガ・リージョン内の地理的ダイナミズムを明らかにしている.
デリー首都圏におけるショッピングモールの展開
土屋(2013)は,デリー首都圏を事例として,ショッピングモールの開発状況を報告した.ハリアナ州のグルガオンやウッタルプラデシュ州のノイダなどのデリー隣接地域では,民間デベロッパーが分譲住宅だけでなくショッピングモールを開発しており,そうしたショッピングモールには様々なブランドショップが積極的に参入していて,外資系ブランドの中にはインドでブランド認知を広める目的でショールームの機能を兼ねた店舗を展開していることを明らかにした.
デリー首都圏の郊外地域は,富裕層だけでなく中間層の居住地域が拡大している.そして,外資系企業の進出によって,分譲住宅地には外国人が集住する場所が増えている.このようにデリー首都圏がメガ・リージョンとして発展していく中で,人口構成が多様化していき,消費市場がモザイク化してきた.特に,外国籍人口にとって,ショッピングモールは母国と似た環境で消費活動ができる場所になっている.
なお土屋(2013)は,2010年の分布図をもとに検討したものである.2010年と2023年の分布図を比較すると,ショッピングモールの分布密度が高まるとともに,巨大モールが競合立地するようになった.テナント構成も変化しており,例えば,家電メーカーの直営店が減少する一方,家電量販店が増えている.外資系ブランドでは,小規模なショッピングモールから撤退する例が増えている.当日の発表では,テナントミックスの状況を踏まえてショッピングモールを類型区分し,それぞれの立地条件を検討して,モザイク化しつつある郊外市場への適応状況について報告したい.