日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 335
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斜面住宅地居住者の移動行動
-静岡県熱海市を事例にして-
*印南 浩幸
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抄録

1.はじめに

 天野ほか(2004)によると,日本には,長崎県長崎市をはじめとした”斜面都市”が複数存在する.斜面都市では,坂が多いという生活環境の悪さが原因で,高齢化や空き家といった様々な都市問題が顕著に見られる傾向がある.特に,最近高齢者が増加する中で,移動行動に関する研究が注目を集めている.坂が多い地域では,特に高齢者を中心に移動が困難になる(伊東ほか 2020).斜面都市を事例に行われた移動行動の研究事例としては石川(2015)などが挙げられる.しかし,斜面都市における移動行動の研究は未だ少なく,1つの都市を事例に,移動行動やモータリゼーションなど”複合的”に分析,考察した研究は少ない.

 そこで本研究では,研究例が少ない点,別荘が卓越するという地理的特徴を持っている点などから,静岡県熱海市の熱海市街地付近を調査対象地域として研究を行う.本研究では最初町丁目単位で,傾斜の大きい住宅地を”斜面住宅地”,傾斜が小さい市街地を”平坦地”と定義づける.その後,斜面住宅地とされた範囲を対象にアンケート調査と聞き取り調査で,①移動行動の実態と地域差,②移動行動と年齢差,③自家用車と公共交通機関利用の地域差,④”新しい公共交通機関”への意識,⑤移動利便性(居住環境)の評価などについて明らかにする.この内容を明らかにすることにより,斜面都市が抱える問題点を明らかにすることができ,今後のまちづくりの方向性を検討することができると考える.

2.研究方法

 本研究では最初,文献,書籍,聞き取り調査などから地域概況を明らかにする.その後,「斜面住宅地」とされた全町丁目に対し,全戸配布型アンケート調査を行い,移動行動などについて明らかにする.なお,アンケート調査結果の精度を高めるため,追加で聞き取り調査も行った.

3.結果

 地域概況を調査した結果,①斜面住宅地の居住地部分の平均傾斜度は約14度~20度である点,②斜面住宅地の範囲の買い物環境が良くない点,③バス路線がやや広範囲にあり,本数,バス停数も比較的多い点,④斜面住宅地の範囲で,幅員が狭く,勾配の大きい道路が多く分布している点,⑤斜面住宅地の開発年代は昭和10~40年頃が多く,一部地域では開発に私鉄企業が関わっている点などが明らかとなった.

 アンケート調査では,移動行動(買い物行動・通勤行動),自家用車に関する質問(自動車運転免許・自家用車保有の有無,運転頻度),回答者の居住形態,現住地の評価等に関する設問を設けた.アンケート調査の回収率は約15.1%であった.

 アンケート調査と聞き取り調査より,熱海市熱海地区の斜面住宅地居住者の移動行動について分析した結果,以下のような傾向が見られた.①モータリゼーションが進行し,自動車依存社会となっている点,②自家用車を保有している場合は,熱海市内だけでなく,他市町村へ買い物に行く傾向が見られる点,③自宅の”すぐ近く”に公共交通機関がある場合は,高齢者を中心に利用する傾向にある点,④自家用車を保有しない状態での生活は厳しく,一家全員が免許返納後した場合,転出する事例が見られる点,⑤現在,公共交通機関が使いにくい地域を中心に” 新たな公共交通機関”を求める声が高い点,⑥全体的に居住環境の評価は高く,移住意欲が低いが,市街地から離れた地域では,居住環境の評価がやや低く,移住意欲がやや高いという6点である.

参考文献

天野充・杉山和一・全炳徳 2004.全国斜面都市の比較分析.土木計画学研究・講演集.30:I(125).

石川雄一 2015.斜面旧市街地における移動と交通に関する課題 -佐世保市における事例-.長崎県立大学東アジア研究所 東アジア評論(7):51-62.

伊東優・今井公太郎・本間健太郎 2020.長崎市の斜面住宅地におけるアクセシビリティの評価と改良 -地形・年齢階層・移動手段を考慮した街路ネットワーク分析-.日本都市計画学会都市計画論文集 55(3):428-434.

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