日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 836
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島原湾南部の海底地形
*大上 隆史
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抄録

はじめに

島原湾(有明海)は九州島で最大の内湾であり,湾内の大部分は水深が50 mより浅い海域によって構成されている.一方で,湾口の早崎瀬戸付近や,湯島西方には水深150m程度に達する海釜(Caldron)が発達している.日本周辺の海域に分布する海釜については多くの報告が行われてきた(例えば,矢部・田山,1934,吉川,1953;茂木,1963).海釜は海峡や湾口などの狭窄部に発達することが知られている.また,海釜の成因については,潮流,波浪,地質構造などが挙げられており,相対的海水準変動との関係も指摘されている.このように,海釜の調査研究は沿岸海域の地形形成を理解する上で重要である.しかしながら,海釜は一般に水深が深く,また侵食域である場合が多いため,海釜の形成プロセスを検討可能なデータは限定的である.島原湾南部において実施された海底活断層調査(文科省・産総研,2023;大上ほか,2023)では,高分解能反射法音波探査によって,湯島西方の海釜を含む島原湾の海底地形および地下構造に関する資料が得られている.本発表では,島原湾南部の海底地形,特に海釜に関連する地形・堆積構造について報告する.

島原湾南部の海底地形

島原湾南部の海底地形について,海底地形デジタルデータM7000シリーズ「九州西岸海域」日本水路協会(2021)および高分解能反射法音波探査記録(文科省・産総研,2023;大上ほか,2023)にもとづいて検討した(図).文科省・産総研(2023)における音波探査の対象海域は,宇土半島北岸〜大矢野島〜湯島〜島原半島(南島原市南有馬)にかけての,布田川断層帯(宇土半島北岸区間)が推定されている領域である.この領域には北東―南西方向に軸を持つ凹地が発達していることを確認できる.大矢野島の北岸付近には最大水深80 m程度の凹地(海釜)が形成されており,周辺の平坦面に比べて30 m程度深くなっている.探査記録によれば,この凹地の表面は侵食面であると推察され,侵食面を覆う堆積物はほとんど確認できない.また,探査記録をみると,さらに深部に埋没した凹地を確認でき,その凹地は第四紀層(後期更新統の可能性が高い)によって埋積されている.以上のことから,この場所では10万年サイクルの海水準変動にともなってサイクリックに凹地(海釜)の形成(侵食)・埋積が繰り返されており,現在の凹地(海釜)が現在埋積されていないことから,凹地(海釜)は海進期(低海面期〜高海面期)に形成(侵食)され,海退期に埋積されていると推察される.

湯島西方には最大水深が約150 mの海釜が発達している(図).この海釜については,中条ほか(1961)が構造的な地形である可能性を指摘し,文科省・産総研(2023)および大上ほか(2023)が海釜の南縁付近に海底活断層(布田川断層帯の延長部)が分布していることを示している.海釜の最深部について,北東―南西方向に横断する断面に着目すると,断層の低下側には新しい時代の(第四系の可能性が高い)堆積物が50 m以上の層厚で形成されている.他方で,現在の海釜はその堆積物を侵食して発達しており,その侵食面を覆う堆積物はほとんど確認できない.以上のことは,湯島西方の海釜が比較的新しい時代に発達した,あるいは,下方への侵食が進行したことを示唆している.ただし,その詳細については周辺の地形・地質を総合的に検討する必要がある.

謝辞:本研究では,文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査手法の検証」の一環で取得したデータを使用しました.

参考文献:矢部・田山1934,地震研彙報.吉川1953,お茶の水女子大自然科学報告.茂木1963,地質学雑誌.中条ほか1961,地調月報.日本水路協会2021,海底地形デジタルデータ「九州西岸海域」.文科省・産総研 2023,「活断層評価の高度化・効率化のための調査手法の検証」令和4年度報告書.大上ほか2023,日本地震学会2023年度秋季学術大会.

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