日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P075
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柑橘産地における農業法人への労働力供給の地域的特徴
宇和島市吉田地区を事例に
*原田 一学
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抄録

1. 研究課題 都市部を除く地域では人口減少や流出が進行し,新規就農者を農業の担い手として位置づけることが重視されている(川久保 2016).また,組織経営体の増加と法人化が進行し,水田では集落営農が,野菜や果樹などの作目においては集落営農以外の法人組織が,農業の相当部分を担うようになった(山本・田林 2021).これらから,日本の農産物産地では法人組織など農業の担い手に注目して分析を行う必要がある.

 そこで,法人組織の展開がみられ,繁忙期に短期的な労働力の確保が求められるとされる,柑橘栽培に注目する.岩﨑(2020)は,柑橘栽培に特化した愛媛県八幡浜市,西予市三瓶町,西宇和郡伊方町を管轄する愛媛県JAにしうわの地域では,みかん農家,JA,行政が連携した全国を対象としたアルバイター事業で収穫期の労働力を確保し,生産維持に大きく寄与していると報告した.しかし,上野・小林(2020)は農業における労働力について,地域内や近隣地域から調達してきた臨時雇用労働力が地域の人口減少に伴って獲得が困難となってきていると指摘した.

 以上を踏まえて本研究は,柑橘産地であるとともに水稲作も盛んであるという愛媛県の特徴があらわれている宇和島市において,柑橘栽培を主として担う農業法人に着目し,農業法人への労働力供給の地域的特徴を明らかにすることを目的とする.

2. 研究方法 本研究では,2023年8月に宇和島市産業経済部農林課に聞き取り調査を行い,宇和島市の柑橘栽培の現状を把握した.また現地調査によって,対象地域で柑橘栽培を行う農業法人の2法人に対して聞き取り調査を行い,法人の事業内容や雇用者の属性,農地の分布を把握した.

3. 労働力供給の地域的特徴 災害を契機に地域の若手農家によって設立された農業法人は,地域の農業を維持することに重点をおきつつ,さらに地域の価値を高めようとすることが特徴である.その一方で,地域外からの参入者も主力となって活動していることも重要である.法人としての利益を確保するために,地域内だけでなく,地域外からも労働力を柔軟に活用し,研修などを行うことを通じて参入者を地域に定着させている.しかし,全体像を捉えれば,本拠とする地域を維持・発展することを主眼に置いて事業を展開しているため,労働力供給も地域内が中心となっている.

 対して,本拠とする地域を中心に柑橘栽培を展開し,本拠とする地域を含めた広範囲の地域での水稲作栽培にも取り組んでいる農業法人は,国外も含めた地域内外の多くの労働力を常雇いし,年齢に応じて業務の効率的な分配を行っていることが特徴である.

 これらに共通するのは地域内外の若年層が柑橘栽培作業の中心を担っていることである.また,地域内外から若年層や外国人を受け入れることで,農業法人は通年で労働力を確保している.このことは,地域における農地や農業の維持に貢献していると判断できる.

【文献】

岩﨑真之介 2020. 愛媛県JAにしうわ「みかんの里アルバイター事業」の仕組みと新たな展開 ―果樹大産地はいかにして全国から多数の短期雇用を確保しているか?―. JCA研究REPORT.

上野 綾・小林国之 2020. 都市農村交流からみた臨時雇用労働力の可能性 ―北海道厚沢部町「農楽会」における農業アルバイトを事例に―. 農経論叢.

川久保篤志 2016. 農業・農村と地方圏の未来. 地理科学.

山本 充・田林 明 2021.  日本農業の動向と研究課題. 『日本農業の存続・発展 ―地域農業の戦略―』農林統計出版.

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