日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 806
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大佐渡山地北西斜面の風衝地にみられる植生の成立環境
*細渕 有斗森島 済
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キーワード: 風衝植生, 低山, 地温, 土壌水分
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抄録

1.はじめに

離島の山頂,稜線付近では,標高や温度環境に関わらず,風衝の影響により高山帯の景観に類似した裸地及び草地が長期的に維持される(水野・山縣 1992)。佐渡島の1,000m程度の標高を持つ大佐渡山地においても,山頂付近に高山帯の景観に類似した植生が指摘され(瀬沼 1981),同山地北部では,斜面部においても,尾根部同様の植生が局所的に成立していることが報告されている(蒲澤 2021)。しかし,島嶼部の低山である同山地風衝地における先行研究では,高山風衝地における植生の規定要因である季節を通じた積雪の影響は,風衝による間接的な冬季の保温効果の分析に留まっているだけでなく,夏季の生育期間への影響については考察が行われていない。細渕ほか(2023)では,同山地北西斜面の風衝地における植生分布の特徴を整理し,微地形に応じた植物の住み分けの比較を行った。本発表では,積雪の不均一性によって生じる植生の成立環境の違いを報告する。

2.調査方法

各植物への雪による影響を明らかにするために,植被の状態及び生育植物種の異なる複数地点に地温計を設置した。地表面付近の地温の日変化が殆ど生じなかった時期を,積雪による保温が行われる期間として分析を行った。夏季の水分条件が,植物の住み分けに与える影響を明らかにするために,生育植物種が異なる複数地点で土壌水分量の連続観測を実施した。併せて,降水量が土壌水分量に与える影響を考慮するために雨量計を設置した。

3.結果と考察

地温観測の結果より,裸地を除いて,冬季から春季までの期間において,積雪による保温効果がみられた。全地点において,保温期間は冠雪後の12月初旬よりみられたが,各地点により消雪時期は異なっている。地衣類・スゲ類,ハクサンシャクナゲ,ホツツジがみられた箇所では,12月初旬以降,殆ど日変化を示さず,観測地点により異なるものの,2023年2月下旬まで約0-4℃の中で一定の温度を示し,積雪による保温効果がみられた。一方で,シバ類・スゲ類のみられた箇所では,12月初旬から12月下旬まで,約0℃を保ったが,以降は0℃を下回る明瞭な日変化がみられ,保温期間は短い。消雪時期が早いことは,低温及び風衝に曝される期間の長期化と考えられることから,消雪時期が早い草本類生育地点は,冬季の低温及び風衝の影響が強く,消雪時期が遅い木本類生育地点は,冬季の温度変化及び風衝の影響が小さい。このことは,対象地域では,高山の風衝地と同様に,消雪時期が植物の住み分けに影響を及ぼしている可能性を示す。夏季の土壌水分量は,草本類の生育地点で高く,木本類の生育地点で低い傾向を示した。特にガクウラジロヨウラクの生育地点は,最も土壌水分量が低く,降水後の低下率が大きい傾向にある。ガクウラジロヨウラクと比較すると,ホツツジ生育地点は土壌水分量が高い傾向を示した。また,ホツツジ群落下部でのみ,常緑樹ハクサンシャクナゲの侵入がみられたことから,木本類は生育期間の土壌水分量に対応して,住み分けが行われていると考えられる。

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