日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S406
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力強い学問的知識に基づいた地理的探究によるESDとしての地理授業
持続可能性の概念と地理的価値態度に着目して
*永田 成文
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抄録

1.日本におけるESDの推進

 現代世界は良好な生活環境の存続が難しくなってきている。このため,持続可能性(sustainability)の概念が登場し,この視点から現代世界の諸課題への対応を考え,持続可能な社会づくりに向けて人々の意識や価値観や態度を変革していく教育であるESDが世界的に推進されるようになった。

 2006年の我が国における「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」実施計画では,「環境,経済,社会の面において持続可能な将来が実現できるような行動の変革をもたらすこと」を目標に,参加型アプローチと問題解決能力を育成する学習プロセスが示された。また,2008・2009年の学習指導要領では,「持続可能な社会」の用語により地理教育を中心とした社会系教科にESDの視点が導入された。2017・2018年の現行学習指導要領では,知識を基盤としたコンテンツから資質・能力を意識したコンピテンシーが意識され,高校の地理総合を核として,小中高の地理教育において,ESDとしての地理授業(地理ESD授業)がより推進されている。

2.力強い知識と力強いペタゴギー関連づけた地理ESD授業

 「地理ケイパビリティ」(GeoCapabilities)は,地理的知識や地理的概念をもとに専門的で特有な方法で考えることができる能力を含み,学問的な理念や概念から導き出される力強い学問的知識(powerful disciplinary knowledge:PDK)が核となっている(永田ほか,2017)。しかし,従来のケイパビリティ論を踏まえた国際プロジェクトでは,力強い知識(powerful knowledge)の側面に偏りすぎ,力強いペタゴギー(powerful pedagogy)と有機的に関連づけることが課題となっていた。

 地理総合の目標の柱書には,地理的な見方・考え方を働かせて,世界の大小様々な地域レベルで表出し,その持続性が脅かされている課題を自らの問題として捉え,背景を思考し,解決に向けて合理的判断を行い,行動につなげていくという,主権者に求められる力の育成が明確に示されている(永田,2020)。志村(2017)は,教科教育におけるESD授業を構想する際に,「持続可能な社会づくりの構成概念」や「ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度」は汎用的なものであり,教科等の学習活動を前提とする必要性を強調した。

現行学習指導要領において地理総合を核として地理教育全体で推進されている地理ESD授業は,力強い知識と力強いペタゴギーが関連づけられている。

3.持続可能性からの地理的探究による地理的価値態度の育成

UNESCO(2004)は,DESDの国際実施計画フレームワークとして,ESDの3領域と15重点分野を示した。OECDの「Education 2030」で示されているウェルビーイングの11指標は,ワークライフバランスや主観的幸福以外はESDと対応している。また,「Education 2030」で示された,私たちの社会を変革し,私たちの未来を作り上げていくためのコンピテンシーであるエージェンシーという考え方は,UNESCOの「ESD for 2030」で強調された「変容的行動」につながる(永田,2023)。

地理ESD 授業は,力強い学問的知識として,位置や分布,場所,人間と自然環境との相互依存関係,空間的相互依存作用,地域を意識し,力強いペタゴギーとして,持続可能性から地理的な見方・考え方を働かせて,見出した課題に対して,その要因を思考し,解決に向けて判断する地理的探究により地理的価値態度を育成する。この思考・判断の過程で力強い学問的知識を深めていくことになる。

文献

志村喬 2017.教科教育としてのESD授業開発の手法-社会科授業を事例に-.井田仁康編『教科教育におけるESDの実践と課題-地理・歴史・公民・社会科-』10-25.古今書院.

永田成文ほか 2017.エネルギーをテーマとした地理ESD授業業.地理 62-9:100-105.

永田成文 2020.「地理総合」の学習指導・評価.社会認識教育学会編 『中学校社会科教育・高等学校地理歴史科教育』95-108.学術図書.

永田成文 2023.持続可能性に基づいた小中高一貫地理教育カリキュラムの構想-SDGsを活用した地理ESD授業-.新地理

71-3:52-56.(印刷中)

UNESCO 2004. United Nations Decade of Education for SustainableDevelopment(2005-2014): Draft International Implementation Scheme.

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