日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 512
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コロナ禍における高級牛肉需給への影響と産地の対応
*淡野 寧彦
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抄録

1.はじめに

 2020年初頭から約3年間,世界中で猛威をふるった新型コロナウイルス(COVID-19)は,社会に大きな影響や変化をもたらした。食をめぐる問題にしぼったとしても,その分析視点は多岐にわたる。コロナ禍における日本の食料需給と農産物価格の変化に早い段階で注目した川久保(2021)によれば,2020年の農産物価格において,日常的消費品目に大きな変化はみられなかった一方,高級食材については家庭内消費が限られることもあって,大幅な下落がみられた。コロナ禍においては,緊急事態宣言による外出制限や,一方での「Go To Eatキャンペーン事業」の展開などにより,高級食材を主に取り扱う外食産業やそれらの産地は,予期せぬ状況に翻弄され続けながら対応に迫られたことは想像に難くない。そこで本研究では,高級牛肉を対象として,その需給への影響と産地の対応について分析することを目的とする。研究方法は,市場全体の動向を俯瞰する手段として食肉業界誌を対象とした文献調査と,産地の具体的な動きを把握する手段として「鹿児島黒牛」を事例とした現地調査である。なお,コロナ禍が続く中では,ロシアのウクライナ侵攻による穀物供給の減少に伴う飼料高をはじめ,様々な物価高騰も発生したことから,これらによる影響も可能な限り留意したい。

2.業界誌にみるコロナ禍の影響

 ここではまず,食肉通信社が発行する『月刊ミート・ジャーナル』を対象に,コロナ禍以前の2019年1月から2023年12月までの記載内容をもとに,コロナ禍の影響を検討する。国内でのコロナ禍に関する話題は,2020年3月号のコラム欄での記載がみられ,4月号以降では外食業への影響や生産者支援のための緊急対策,共進会などの定期イベントの中止などの記事が並び始めた。同年12月号では「コロナ禍で激動の1年の検証」との特集が組まれている。2021年からは,コロナ禍を前提として,クラウドファンディングによって和牛飼育を継続する産地の例や,定期イベントの再開,またアフターコロナを見据えた戦略といった記載がみられるようになった。2023年にはアフターコロナの消費トレンド分析のほか,コスト高や物流の2024年問題を念頭にした飼料配送をめぐる問題へと内容は変化していった。

3.「鹿児島黒牛」の供給体制とコロナ禍への対応

 2023年の全国における肉用牛飼養頭数は1,882,000頭であり,最大産地は343,400頭(18.2%)の鹿児島県である(畜産統計:下図)。本研究で取り上げる「鹿児島黒牛」は,1986年,鹿児島黒牛黒豚銘柄販売促進協議会の設立により,統一銘柄として設定された。1992年には,鹿児島県が指定する「かごしまブランド」の一つとなった。その後も飼育マニュアルの設定・改訂などを通じて品質の向上・安定化が図られ,全国和牛能力共進会で受賞を続けるようになった。2017年には第6類生鮮肉類の区分で地理的表示産品(GI)に登録されている。発表当日は,現地調査で得られた情報をもとに,コロナ禍における産地の対応について詳述する。

参考文献:川久保篤志 2021.コロナ禍で現れた食料需給と農産物価格の変化に関する一考察.地域地理研究,26,14-22.付記:本研究では,科学研究費補助金 (基盤研究C課題番号:22K01064を使用した。

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