日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 702
会議情報

環境DNAを用いた霞ヶ浦流域内河川におけるイシガイ類の分布の解明
*小室 隆後藤 益滋川崎 真由美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに

湖沼や,そこに流入する河川には様々な生物が生息しており,湖沼や河川ごとに独自の生態系を構成している。しかし,近代化が進行するにつれてその生態系が崩壊し,国内外で生物種の減少が進行している。水圏生態系において水の濾過や魚類の産卵母貝として重要な役割を持つ二枚貝であるイシガイ類は国内外でその数が減少している。二枚貝のイシガイ目Unionoida(以下、イシガイ類)は、世界各地の河川、湖沼に生息し、全世界に6科165属、約1000種が生息している(Bauer, 2001)。日本国内では18種の生息が報告され、そのうち13種は絶滅危惧種である(Kondo,2008)。イシガイ類の再生産には寄生宿主として適正な魚類が多数生息している必要があることや、コイ科魚類のタナゴ類およびヒガイ類はイシガイ類に産卵するため、これらの魚類の再生産には不可欠であることなどから、環境指標生物としての重要性も有している。イシガイ類は、日本国内の河川及び湖沼に生息している。霞ヶ浦と周辺流入河川で確認されているイシガイ科の二枚貝は、1993年以降では9種だが、近年では急速に減少している(鈴木, 2018)。減少要因の一つとして考えられているのは、近年の気候変動に伴った夏季の霞ケ浦及び流入河川の水温上昇による影響が本種の再生産または生息に直接ないし間接的に与えている可能性も否定できないが、その情報が十分ではない。近年では環境DNA(以下,eDNA)を用いることで、従来法に比べて広範囲を短時間で生物調査を行えることや、貝を掘り起こすなどで引き起こされる人為的攪乱などを減させることが可能となる。本研究では、霞ヶ浦に流入する河川において,主に東日本に生息するタテボシガイ(旧イシガイ)Nodularia nipponensis (Martens, 1877)のeDNAを対象とし,2022年から定期的にな採水を行い,その変動をモニタリングと水温を計測することで生息環境を明らかにすることを目的とした。

2.方法

eDNAのサンプリングは、タテボシガイの活動期でもある2022年6月、7月、9月、2023年5月、8月、11月、2024年2月の7回実施した。霞ヶ浦に流入する6河川(KN川、KM川、SS川、YK川、HK川及びIS川)で実施した。調査対象河川では、サンプリング時に直接イシガイの個体確認も行った。いずれの河川も土地利用状況は、田畑であり、両岸が2面コンクリートもしくは鉄板による矢板で改修されている。流水環境は、平瀬であり、河床条件は砂またはシルト交じりの砂の上に細礫から大礫が所々に堆積している。eDNA分析用サンプルは、1Lポリプロピレン製ボトルに表層水をサンプリングして、塩化ベンザルコニウム水溶液を1ml添加し、十分攪拌した後にクーラーボックスで保冷して実験室へ持ち帰った。持ち帰ったサンプルは、ワットマンGFFろ紙(Cytiva社製)でろ過を行った。なお、採水及び抽出方法までの操作については、既往研究を参考とした(Minamoto et al., 2021)。eDNA解析には、タテボシガイ(N.nipponensis)のCO1領域を対象とした特異的なプライマーを新規設計した。設計したプライマーの精度を確かめるため,調査地に生息するイシガイ科のマツカサガイ(Pronodularia japanensis),ドブガイ(Anodonta lauta),ヨコハマシジラガイ(Inversiunio jokohamensis)の断片組織を採取し,そこから抽出したDNAを設計したタテボシガイ(N.nipponensis)のプライマーによる交差反応試験をeDNA解析と同条件を行い、クロスチェックを行った。解析は、リアルタイムPCR(Bio rad社製CFX Optus)を用いて行った。また、本調査地点では河床付近に水温ロガー(Onset社:HOBO MX Pendant Temp)をコンクリートブロックに固定して設置し、2022年7月から経時的な水温を測定している。 3.結果・考察

eDNA解析の結果、図1に示すとおり全地点でタテボシガイのeDNAが検出された。2022年6月のKM3では、4227.1 copies/Ⅼと調査地点中最も濃度が高かった。KM1,3,4では濃度に差はあるものの,検出され続けた。季節間の挙動は、どの河川ともに概ね2022年の9月が最も濃度が高い傾向が見られた。また、2022年と2023年を比べると,全地点の傾向として2022年の方が濃度が高く検出されていた。濃度に差はあるもののKM1,3,4では2年間のモニタリングの結果,常にタテボシガイのeDNAが検出されたことからこれらの地点を生息場所として利用していることが明らかとなった。

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top