日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P011
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2018年豪雨による広島市南部の水路頭集水域内の崩壊発生率
―1945年枕崎台風の影響を含めた分析―
*齋藤 健太八反地 剛小倉 拓郎古市 剛久田中 靖土志田 正二
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抄録

はじめに

山地を開析する谷には水路が発達しており,谷頭部における水路の最上流端には水路頭と呼ばれる微地形がある.水路頭は斜面(谷頭凹地)と水路の結節点であり,その位置は表層崩壊により変動することが指摘されているがその実態はよくわかっていない.繰り返し崩壊が発生する山地の場合,豪雨による水路頭の変動について,以下の仮説が考えられている.豪雨前,水路頭上部は周辺斜面からの土砂供給により埋没しており,水路頭の集水面積が大きい状態である.豪雨時,水路頭集水域内の谷頭凹地で表層崩壊が発生すると,水路頭は上流側へ移動し,その集水面積は小さくなる.豪雨後しばらく経過すると,周辺斜面からの土砂供給により崩壊跡地は埋積されるため,水路頭は下流側へ移動し,集水面積が回復する.これまでの研究により,集水面積が大きい水路頭では表層崩壊の可能性が高いことが指摘されている.集水面積と表層崩壊発生の関係についてさらに詳細に検討することにより,水路頭集水域内における表層崩壊の発生のしやすさを評価できる可能性がある.一方,一度崩壊した斜面においては崩壊の免疫性の考え方が有効であり,斜面単位では一定期間崩壊が発生しにくいことが指摘されている.しかし,集水域内で一度崩壊した水路頭において,一定期間集水域内で崩壊が発生しにくいかは不明である.そこで,本研究では,水路頭の集水面積と過去の崩壊履歴に着目して,水路頭集水域内における表層崩壊発生率を分析した.

調査地域・方法

調査地域は1945年枕崎台風と2018年7月豪雨により多数の表層崩壊が発生した広島県絵下山周辺の花崗岩地域である.まず,同地域において2009年に取得された1 m解像度DEMに基づき,2018年豪雨前の2009年時点の水路頭を判読し,それらの水路頭の集水域の面積(集水面積)を算出した.次に,1945年枕崎台風,2018年7月豪雨による崩壊地を空中写真により判読した.水路頭集水域内の2時期の崩壊の有無により,2009年時点の水路頭を1945年崩壊・2018年崩壊(2回崩壊,AL),1945年崩壊・2018年非崩壊(1945年のみ崩壊,AS),1945年非崩壊・2018年崩壊(2018年のみ崩壊,BL),1945年非崩壊・2018年非崩壊(崩壊なし,BS)の4つのグループに分類した.

結果・考察

2018年崩壊の有無別に水路頭の集水面積を比較した結果,2018年非崩壊(AS+BS)の水路頭の81%では集水面積が3000 m2以下であり,集水面積の分布に偏りがみられた.一方,2018年崩壊(AL+BL)の水路頭にはそのような偏りは見られなかったが,全体の72%が集水面積3000 m2以上であった.また,2018年崩壊の水路頭の集水面積が2018年 非崩壊の水路頭と比較して有意に大きかった.さらに,集水面積3000 m2以上の水路頭の崩壊発生率は49%であり,3000 m2以下の水路頭では8%であった.この結果は,3000 m2以上の大きな集水面積をもつ水路頭では,その集水域内に潜在的な不安定領域が形成される確率が高くなることを示唆する.1945年崩壊(AL+AS)の水路頭のうち,2018年に崩壊が再発した割合が33%に達したが(図1),1945年非崩壊(BL+BS)の水路頭における2018年の崩壊発生率は17%であった.この結果は,1945~2018年の73年間において,集水域内で再び崩壊が発生しうる状態に達した水路頭が多かったことを示す.また,1945年崩壊(AL+AS)の水路頭における集水面積3000 m2以上の割合は50%,1945年非崩壊(BL+BS)の水路頭では25%であった.さらに,2回崩壊した水路頭(AL)のうち,2018年豪雨前時点で集水面積6000 m2以上のものが全体の80%を占めた(図1).これらの結果は,1945年崩壊の水路頭の一部では,何らかの要因により,集水面積が大きくなりやすい傾向があり,2018年に再び崩壊しやすい状態になっていたことを示唆する.一方,1945年非崩壊の水路頭には明確な崩壊履歴を確認できなかったが,集水面積が1945年崩壊の水路頭と比較して小さく,2018年における崩壊発生率も小さくなった可能性がある.

謝辞:本研究課題は科学研究費基盤研究B(22H00750)の助成を受けて実施した.

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