日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 305
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移住者に対する意識
受入住民側の特性に着目した探索的分析
*滕 媛媛埴淵 知哉中谷 友樹
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抄録

1. はじめに

 近年、少子高齢化による人口減少が進行する中、東京への一極集中に歯止めがかからない状況が続いている。新型コロナウイルス感染症の流行により、一時的に東京都への転入超過数は減少したものの、2023年には再びコロナ禍前の水準に接近している。2022年の東京都の転入超過数は3.8万人程度であったが、2023年は11月までで既に約6.8万人に達している(『住民基本台帳人口移動報告』より)。

 このような状況に対応するため、2014年に策定された第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」やその後の第2期とコロナ禍の影響を踏まえた修正版においては、地方への移住・定着の促進が基本目標の一つに掲げられている。これに応じて、多くの地方自治体が積極的な人口誘致策を展開している。各地では移住者による多様な新規事業が起こされ、地域の活性化が進んでいる一方で、移住者が経験する生活上のトラブルもしばしば報道されている。特に、移住者と地域住民間の人間関係に関する問題が顕著であると指摘されている。加藤・前村(2023)によると、余所者扱いを受けるなどの社会的排斥や人間関係の悩みといった中断要因は、女性や移住先で比較的長い期間居住した移住者において目立っている。また、移住者の定着を妨げる主要な要因は、中断後に再移住した他の地域がより魅力的であるためではなく、中断に至った移住先の問題であるとされている。したがって、移住者の定着を促進するためには、移住先の受け入れ環境や態勢の整備が重要である。

 しかし、移住者の受け入れ環境の整備に関する研究の多くは制度面に偏重しており、社会的環境としての地域住民の移住者に対する意識やその決定要因に関する分析はまだ不十分である。埴淵(2022)では、移住者の増加による地域への経済的利益と人間関係への影響についての集計結果を紹介しているが、詳細な分析には及んでいない。本研究では、地方居住者の移住者に対する意識に焦点を当て、同じアンケート調査のデータを用いてその決定要因を明らかにすることを目指す。分析においては、特に地域住民およびその居住地の特性に注目する。

2.方法と結果

 本研究の分析には、2020年10~11月に実施された「都市的ライフスタイルの選好に関する地理的社会調査(GLUP)」のデータを用いる。この調査については埴淵(2022)に詳述されている。調査では、回答者が生活している地域に移住者が増えることで、「地域経済が活性化する」、「地域社会の文化を豊かにする」、「地域の人間関係が希薄になる」、「地域の治安・風紀が乱れる」という影響があると思うかどうかを、それぞれ「そう思う」~「そう思わない」の4段階の評価で尋ねている。

 分析では、まず移住者に対する意識を示す4つの設問に対して主成分分析を行い、2つの主要な成分を抽出した。これらは「地域発展メリット肯定因子」と「地域社会リスク警戒因子」と名付けられる。次に、これら2つの因子を目的変数として、回帰分析を実施した。説明変数には、回答者の人口学的属性、社会経済的特性、社会関係、居住地の状況などを用いた。

 分析の結果、比較的若い層、高等教育を受けた人、居住年数が短い人、地域と強いつながりを持つ人や地域の未来に明るい展望を持つ人などは、移住者の増加が地域の発展にもたらすメリットに肯定的な認識を持ちやすい傾向が確認された。一方で、移住者の増加に伴う地域社会のリスクに対する警戒意識は、個人の属性よりも地域特性(より都会的であること)、地域に対する認識、社会的関係、地域との関わり方(たとえば、密接な人間関係や強い地域への愛着)などとより強く関連していることが分かった。本発表では、より詳細な結果および政策的インプリケーションについて議論する。

引用文献

加藤潤三・前村奈央佳 2023. 地方移住をやめるとき――計量テキスト分析による移住の中断要因の検討.立命館産業社会論集59(3):55-72.

埴淵知哉編 2022.『社会調査で描く日本の大都市』古今書院.

謝辞

 本研究で利用したデータ(「地域での暮らしに関するアンケート調査」)は、JSPS科研費17H00947(代表:埴淵知哉)の助成を受けたものである。

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