1. はじめに
立山での気候変動と雪氷変動の関係を明らかにするため,富士ノ折立(2999m)北側に位置する内蔵助氷河では1987年から毎年6月初旬と9月末に名古屋大と立山カルデラ砂防博物館が氷河面積および縦断面の測量を行っている.測量は当初,トータルステーションを用いたトラバース測量,現在では測量用GPSを用いたキネマティック測位で行っている.2021年からはGPS測量に加えてUAV空撮およびUAV搭載LiDARを用いた測量も試験的に行っている.本発表では地上基準点を用いないUAV空撮およびUAV_LiDAR観測で作成したDSMの鉛直誤差について報告する.
2. 調査地
内蔵助氷河は長さが350m,幅が120m,氷厚が25m,流動速度が年間2~3cmである.吹きだまり効果および雪崩によって雪が集積し,冬期の最大積雪深は20m近くに達する(渡辺1986).
3. 方法
UAV空撮は2021年6月1日,9月30日,2022年6月1日に行った.使用機材はDJI社製Phantom 4 RTKとD-RTK2である.撮影高度は高度80m,手動で飛行および撮影を行った.SfM処理はmetashape pro,データ解析はArcGIS proを用いた.
UAV_LiDAR観測は2023年9月30日に行った.使用機材はDJI社製Matrice 350 RTKとZemmuse L1,D-RTK2である.地形フォロー機能を利用して高度70mで自動飛行を行った.点群のデータ処理はDJI Terra,データ解析はArcGIS proを用いた.
UAV観測と同時に測量用GPSを用いて氷河の縦断面と外周のキネマティック測量を実施した.このGPSデータを誤差算出のための真の値として用いた.
4. 空撮DSMの鉛直誤差
図1に2021年6月1日の空撮_DSMとGPS測量の高度の差分(DSMの鉛直誤差と呼ぶ)を示す。誤差の平均は0.56m,標準偏差は0.41mであった.2021年9月30日のDSMの鉛直誤差の平均は0.65m,標準偏差は0.6mであった.6月1日,9月30日のデータは積雪深が10mを超える立山の積雪調査としては十分な精度であるといえる.図2に2021年6月1日と2021年9月30日のDSM差分から求めた積雪深を示す.積雪深は最大で17mに達した.積雪深は氷体上が12m,隣接するモレーン上が2m前後と同じカール内でも変化に富んでいた.
2022年6月1日は風が強く,観測中に風速が強すぎると警告表示が出た。鉛直誤差はカール底方向に増加する傾向があり,カール底付近の誤差は10mを超えた.誤差の平均は-8.2mに達した.風速が強いときはUAVによる測量では満足な精度のデータが得られないことが分かった.
5. LiDAR_DSMの鉛直誤差
2023年9月30日のLiDAR_DSMの鉛直誤差は平均0.34m,標準偏差0.23mであった.2021年9月30日の空撮DSMと比較すると誤差は0.3m程度小さく,UAV空撮から作成したDSMよりは高精度なデータが得られることが分かった.しかし,LiDAR搭載UAVは機材が大型で重量も20kgと重いため徒歩での輸送に大きな労力を有する.UAV空撮でも十分な精度のデータが得られるため立山での氷河や雪渓の測量ではUAV空撮の方が利便性が高いと判断される.
文献:福井ほか2018 地理評 91:48-61.渡辺 1986 地理評 59:404-425