日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P034
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山岳観光地における観光行動とトイレに関する総合的研究
上高地の公衆トイレを事例として
*湯澤 規子有馬 貴之宇根 義己高野 誠二目代 邦康渡邊 達也中島 舜
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抄録

本研究は,日本における山岳観光地の一つである上高地を事例として,観光行動と公衆トイレの設置・利用状況の関係を分析し,地理学におけるトイレと循環型社会に関する総合的研究の構築を試みることを目的とする.山岳観光地において屎尿処理は重要な課題である.そこでまず,現在,上高地の環境整備を所管する松本市アルプスリゾート整備本部へのヒアリングを実施,次に現地調査によって上高地に立地する11か所の公衆トイレの設置状況,規模,屎尿処理方法,利用等のデータを収集した.観光行動と屎尿の関係に関しては人流データと上高地浄化センターの汚水処理量(2014年~2024年)等を用いて計測,分析し,トイレに関するデータとの照合を試みた.

 上高地までの道路の整備が進み観光客が増加したことに伴って,屎尿処理が問題になると,水域の保全と公衆衛生,環境保全を目的として1985年に特定環境保全公共下水道事業が竣工した.下水道整備は観光客が集中する「集団施設地区」が中心であり,明神,徳沢,横尾および山小屋等は対象外となっていた.2025年現在は下水道未整備地域からの汲取りあるいは自家浄化槽からの汚泥処理を上高地浄化センターが請負うシステムが確立され,環境省と松本市の予算により,公衆トイレの整備・刷新が進められている.上高地バスターミナルから河童橋に至る「集団施設地区」は登山客よりも行楽地として上高地を楽しむ一般観光客が多く,これまでもオーバーユース(過剰利用)の問題が指摘されてきた.11か所の公衆トイレを調査した結果,公衆トイレも同地区に集積し,便器数,処理量が多く,大正池から横尾に至る上高地全域のトイレの立地と規模は,山岳観光地としてのゾーニング計画とも連動していることが明らかになった.2025年現在導入されているチップ制度には観光客の環境への関心を高めるねらいが含まれており,集中や滞留などの観光行動がトイレを規定する一方,トイレを通した観光行動の変容が期待されていることがうかがわれた.

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