日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P050
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オープンデータを利用した様々な施設へのアクセシビリティに基づく地域特性の分析
- 浜松市を事例に -
*中野 仁敬佐藤 裕哉冨田 哲治
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抄録

1.諸言

 人々が居住し生活する都市には多種多様な施設が集まり,それらを利用して日常生活を過ごしている.食料品や生活雑貨など日々の生活に必要な買い物のためには,大型ショップングセンターや各種小売店等などを利用し,怪我や病気などの際には医療機関を受診する.都市部では居住地から比較的近い距離にこのような施設が立地しているのに対し,地方では高齢化・人口減少・過疎化などの影響で施設までの距離が遠く,その多様性も低い場合が多い.また,市町村合併により市域が広くなったことで,都市内においても地域差が見られる場合もある.本研究では,増山(2023)[1]による名古屋市の分析事例を参考に,生活に不可欠な様々な施設へのアクセシビリティを計測し多変量データとして統合し主成分分析などの統計分析を適用することで,定量的な指標に基づき都市内の地域特性について分析を行う.

2.資料と方法

 本研究では, 市域が広く,都市部と山間部の特徴を併せ持つ浜松市を対象地区とした.基礎データとなるアクセシビリティの計測には,居住地と様々な都市施設の位置情報および道路網のデータが必要となる.まず,浜松市の居住区の位置情報は,e-Stat[2]で公開される2020年度国勢調査小地域町丁・字等から得られる各居住区ポリゴン重心座標を代表点として利用した.多種類の都市施設の位置情報は,国土数値情報ダウンロードサイト[3],食べログ[4]のスクレイピング等により12区分(42種類)の施設の位置座標を取得し利用した.基礎データ計測のために必要な道路距離および移動時間の算出には,冨田・佐藤(2022)[5]と同様なOSRM(Open Source Routing Machine)に基づく経路探索システムを構築し,浜松市内の各居住区から各種施設へのアクセシビリティ指標として最短時間(距離)と累積機会の2指標を用いた.居住区から12区分(42施設)へのアクセシビリティ指標の多変量データに対して主成分分析を適用する.主成分分析の結果に基づき,主成分負荷量のパターンから各主成分で記述される都市の地域特性を意味づける.次に,各居住区の主成分得点を算出し,その地理分布を可視化する.

3.結果と考察

 本発表では累積機会を用いた12区分の多種類施設について計測したアクセシビリティ指標データに対して主成分分析を適用した.

 主成分負荷量のパターンから,第1主成分では映画館や劇場などの集客施設,和食や中華料理などの飲食店などの値が大きく,主要な娯楽施設等へのアクセシビリティと解釈することができる.また,第2主成分では教育施設(小学校など),警察や消防,児童施設,都市公園,文化施設(美術館や図書館など),公共交通(バス停や鉄道駅)の値が大きいことから,安全で暮らしやすい生活に関連する施設へのアクセシビリティと解釈することができる.

 次に,主成分分析によって得られた居住区の主成分得点の地理分布のヒートマップを作成した.これより,第1主成分得点,第2主成分得点では都市部の中央区を中心として主成分得点が大きくなっていくことが確認された.また,山間部の天竜区では主成分得点が小さくなっていることが確認された.このことから,都市部を中心として娯楽等の経済活動が行われ,安全で暮らしやすい街づくりが行われていることが主成分得点の地理分布に現れていると考えられ,中央区の周辺では,文化や安心へのアクセスが良好であることが示された.また,都市部郊外では同程度の値が広がっていることから,都市部以外では各種施設へのアクセシビリティの観点では地域差は小さいと考えられる.

参考文献

[1]増山篤 2023. 多種類の都市施設に対するアクセシビリティの計測と各種社会経済変数との関係の分析-名古屋市を対象としたケーススタディ-, 日本地理学会発表要旨集 No.104.

[2]総務省統計局. e-stat政府統計の総合窓口:統計でみる日本 URL: e-stat.go.jp (最終アクセス: 2025/6/27)

[3]国土交通省. 国土数値情報ダウンロードサイト, URL:http s://nlftp.mlit.go.jp/ksj/(最終アクセス:2025/6/27)

[4]株式会社カカクコム. 食べログ, URL: tabelog.com/(最終アクセス:2025年6月27日)

[5]冨田哲治・佐藤裕哉 2022. 公的統計の利活用における、オープンGISデータおよびフリーツールの有用性と課題-病児保育施設へのアクセシビリティ解析を例に-. 統計研究彙報79:61-74.

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