日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 320
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秋田県の局地風「生保内だし」はヤマセ由来の風なのか?
*工藤 達貴日下 博幸
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抄録

1.はじめに

 生保内だしは、奥羽山脈と田沢湖との間に位置する秋田県仙北市生保内地区で吹く東寄りの局地風である。生保内だしは400年以上前から、稲などの豊作をもたらすとして現地住民から重宝されている(千葉 1973)。生保内だしが「宝風」と呼ばれる理由の一つとして、ヤマセが奥羽山脈を吹き越えてフェーン昇温し、暖かい風が生保内地区の農業に恩恵を与えるためである、という説が挙げられている(本谷 2018)。加えて、生保内だしは生保内地区の東に位置する奥羽山脈の鞍部、仙岩峠から吹くといわれている。ヤマセと生保内だしはしばしば同時に吹くため、上記2つの説は正しいように見える。しかし、これらの仮説は東北地方北部における地上風分布から得られた推測にすぎない。本発表では、上記の仮説をより強固にするために、生保内だしの吹走経路を数値シミュレーションによって明らかにした結果を報告する。

2.データと方法

 東北地方でヤマセが吹くときの典型的な生保内だし吹走日である2016年7月5日の東北地方北部における気温と風の場を領域気象モデルWRFによって3次元的に再現した。さらには、生保内だしがどこから来たのか調べるために、生保内地区に位置する空気塊を、時間をさかのぼって追跡する、後方流跡線解析を行った。

3.結果と考察

 WRFは東北地方北部での現実の気温と風の場を概ね再現した。7月5日午前中の太平洋沿岸上空における東寄りの風かつ安定層の上端高度、つまりヤマセの上端高度は1.2~2.4kmであった。後方流跡線解析の結果、生保内だしに関連する空気塊は太平洋→北上山地→北上盆地上空→仙岩峠→生保内地区、という経路を通っていた。空気塊の太平洋上における高度は1.2km以下であった。これらの結果は、生保内だしはヤマセが奥羽山脈を吹き越えた風である、生保内だしは仙岩峠から吹く、という2つの仮説をより強固にした。

謝辞

本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2124の⽀援を受けたものである。

参考文献

千葉三郎 1973. 『文芸秋田』文芸秋田社.

本谷研 2018. 秋田県の気候. 日下博幸・藤部文昭・吉野正敏・田林明・木村富士男編『日本気候百科』70-76. 丸善出版.

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