Ⅰ はじめに
徳島県西部を流れる吉野川水系の穴吹川の水質については、これまで徳島大学を中心とした調査チームにより水質調査が行われている(山本他、2011)、(山本他、2008)。この調査から、10数年以上の期間が経過しており、当時の水質から変化があると考えられる。ほかにも、穴吹川の上流部において、御荷鉾構造線の破砕帯を通過している箇所があるが、構造線の破砕帯を河川が通過するとき、HCO3の濃度が上昇することが穴吹川と隣接している祖谷川において確かめられている(天田他、1982)。同調査は、穴吹川では実施されていないため、本調査において祖谷川と同様の地質帯を通過する穴吹川においても実施する意義があると考えた。
Ⅱ 対象地域
吉野川水系の貞光川と、穴吹川を本調査の対象とする。調査にあたっては、本流だけでなくそれぞれの支流及び、両川の流入する付近の吉野川もその対象に含めた
Ⅲ 研究方法
月1回を目途に、水質の調査を行うほか、両川の環境の違いを分析するため、両河川の縦断図を作成するとともに、ストレーラの水系次数や、水系密度、流域形状係数等を1/50,000地形図を基に作図し算定した。また、流域の地質構造の違いを明確にするため、1/200,000シームレス地質図に水系網を重ね、本流、支流の通過する地質を確認した。
Ⅳ 結果・考察
1.水力発電所の取水が水質に与える影響
水力発電所の取水による水質の悪化は認められなかった。ただし、取水口から放水口までの間、河川維持放流がなされていない区間では、水質の悪化が認められた。この悪化を解消するため、貞光川の吉良発電所取水口において0.2m3/sの河川維持放流があれば、取水口とほぼ同等の水質が維持できることを確かめた。
2.地質や流路の違いによる影響
穴吹川上流部における高いEC値の原因を探るため、主要な支流について、三波川帯の上流部と、秩父帯の上流、それぞれの破砕帯通過後のEC値を比較した。結果、いずれの地点においても、上流部の値は60μS/cm前後で貞光川と穴吹川は、ほぼ同様であったのに対し、構造線近辺では130~200μS/cm程度の高い値を示した。破砕帯を通過する際、HCO3やCaの濃度が上昇し、高いEC値を示すためであり、現地において、ECを測定することにより破砕帯の有無の簡易判定が可能となり、地滑り危険地域等の判定の参考となる。