日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 337
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1961~2021年のDSMを利用した神戸市既成市街地における建物高さの時空間分析
*桐村 喬
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抄録

I はじめに

 1970年代以降,日本の大都市圏では,都心部での人口減少や郊外化,1990年代以降は都心部での人口回復と郊外の衰退などを経験し,都市構造を大きく変容させてきた.既往研究の多くは,居住分化を中心に,このような変容に焦点を当ててきたが,都市空間を2次元的な視点から捉えるものが多く,立体的な変化には十分に注意を払ってこなかった.大都市には多くの機能が高度に集積して都市空間が立体化してきており,このような立体化は大都市圏の構造変容にも大きな影響を及ぼしている.

 3次元的な視点から都市空間を分析するには,建物高さを含んだ3Dデータが必要になる.近年は,PLATEAUのように公開が進みつつあるが,過去の都市空間の3Dデータは,国土地理院の空中写真などを利用し,フォトグラメトリによって作成する必要がある.

 そこで,発表者がすでにデータを作成し,一部をウェブ公開している,1961~2021年の神戸市の既成市街地の3Dデータを利用し,建物高さの長期的な変化についての分析を行う.特に,①大都市における建物高さの時空間的な変化と,②阪神・淡路大震災以降と重なる,1990年代後半以降の都心部での人口回復期における人口動向と建物高さの変化の関係について検討する.

 分析に用いる3Dデータは,1961・1975・1985・1995・2009・2021年の6時点のものであり,フォトグラメトリによって得られた点群データの分類を行い,地面の点群を利用してDEMを作成し,DSMとの差を求めて建物高さを得る.この高さには樹木なども含まれるが,対象地域が市街地であることから,大きな影響はないものと考えられる.

II 1961~2021年の建物高さの変化

 1961年時点での31m程度の高さの高層建築は,三宮駅から神戸駅にかけての都心部に限られている.都市空間の立体化は需要が最も高い都心部で始まっている.1975年になると,そのような高層建築が都心部以外にも点在するようになり,1985年には分布を大きく広げ,都心部以外にも多くなる.また,都心部から新開地など,周辺地域にも徐々に広がっている.1995年のデータは3月のものであり,地震から2か月程度が経過しているが,高層建築については1985年からの10年間に分布を広げている.2009年には高層建築の分布はさらに広がり,都心部などにはタワーマンションもみられる.また,復興事業による複合ビルなども確認できる.2021年までの間も高層建築の増加傾向は続いている.

 神戸市既成市街地における都市空間の立体化の進展は,都心部では1960年代ですでに端緒がみられ,都心部以外の主要な駅前などでは1970年代以降である.特に面的かつ顕著に進展するのは1995年以降である.

III 1995年以降の人口動向と建物高さの変化との関係

 ここでは,1995・2009・2021年の建物高さデータと,1995・2010・2020年の国勢調査の人口データを利用して,前半期(1995~2009/2010年)と後半期(2009/2010~2021/2020年)のそれぞれの変化率を求めて建物高さの変化と人口動向との関係を検討する.建物高さデータについては市街化区域内の街区に分析範囲を限定し,町丁単位で建物高さの中央値を算出して変化率を求める. 2つの変化率には若干の対応関係がみられるが,順位相関係数を求めると,前半期のほうが後半期よりも係数が若干高く,震災復興がより顕著に進んだ前半期のほうが,建物高さの上昇と人口増加に一定の関係があるものと考えられる.このことは,特に前半期において,建設された建物の多くが住宅であることを示唆している.

 1995年以降に人口が大きく増加した町丁には,復興住宅や再開発による高層の住宅が建設された地域だけでなく,区画整理事業後に中低層の住宅が建設された地域もみられる.前者で建物高さが大きく上昇しただけでなく,後者の地域でも,更地からの変化率という点では大きな上昇がみられる.また,都心部および都心周辺部,主要駅周辺では高層マンションが建設されている状況が確認でき,大都市に共通する都心部での人口回復の結果と考えられる.

IV 今後の課題

 国勢調査に近い,おおむね5年間隔で空中写真が利用できれば,建物高さと居住者特性の変化との関係をより詳細に検討することができる.また,経済センサスなどと併用することで,都市機能の集積との関係の分析も可能と考えられる.

 一方,3Dデータに関する課題もみられる.例えば点群データの分類の際には,建築面積の広い建物や密集する建物が地面として誤分類されることがあり,そのような地域での建物高さは低く計算されてしまう.これらの課題を解決しつつ,3次元的な視点からのより精緻な分析を実現できるようにする必要がある.

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