日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P011
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大都市圏における多様なセグリゲーションと転居行動に関する調査速報集計
*上杉 昌也豊田 哲也上村 要司桐村 喬
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抄録

I 研究の目的

 グローバル都市の都心部では,高所得層が集積し,質の高い学校や高賃金の仕事を提供する場として変化しつつある.米国社会では,富裕層と貧困層の分断は居住地域のみならず,教育・職場・友人ネットワークなどにおける分断との関連も指摘される.そこで本研究では,居住者の社会的つながり,住宅の資産性,教育,価値観・意識などの観点から日本の大都市圏における多様な社会経済的なセグリゲーションの実態について明らかにする.

II 調査方法

 本研究では,現在東京都市圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)と大阪都市圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)に居住し,2015年以降に転居を経験した30~60歳代を対象に,オンライン調査を実施した.調査項目は,個人属性に関する項目のほか,社会的ネットワーク(友人や近所のつながりなど),居住地域に関する項目(転居理由,居住地選択要因,居住履歴,将来居住意向など)に関する項目,教育に関する項目(子どもの学校の種類,進学先の相談者など),価値観・意識に関する項目(階層帰属意識,居住環境評価,主観的幸福度など)である.調査は株式会社マクロミルに委託し,2024年11月11~18日に実施した.標本は各都市圏2000ずつとし,地域・性別・年齢で人口比例割付した.

III 調査速報

(1) 社会的つながりとセグリゲーション

 社会的なネットワークの分断と居住地の分断との関係を明らかにするため,家族や親戚,友人,近所の人に特定の属性の知り合い(医師・弁護士,大学教員・研究者,シングルマザー,フリーターなど)がいるかをそれぞれ尋ねた.また回答者の居住地特性として,郵便番号区単位での社会経済的水準(ホワイトカラー割合)を特定したところ,地区特性によって社会的ネットワークの違いがみられた.ただし,このような関係はあくまで相関関係であり,居住地の効果としてのつながりへの影響を特定するためには,他の個人属性や移動履歴との関連性なども含めてより詳細な分析を進めていく必要がある.

(2) 住宅の資産性とセグリゲーション

 住宅の将来価値や収益性といった資産価値が,居住地選択に与える影響についても把握した.持家居住世帯では,将来転居する際の現住宅の扱いについて,売却のほか所有したまま賃貸する意向がみられ,現住宅や転居先住宅の売却益とともに賃料収入を重視する姿勢も示された.定住意向は郊外居住者において高いが,東京都市圏の都心・周辺区では高所得層ほど高い.大阪都市圏の都心・周辺区の高所得層では,現住地の選択時に特定学区にこだわる傾向もみられた.これらの特徴の背景について,地域の住宅価格や所得水準との関係からさらに考察を加えることにする.

(3) 子どもの教育とセグリゲーション

 子どもの進学先は,居住地選択の際の重要な要素である.私立学校への進学率の地域差も考慮して,公立小・中学校の推定進学率を算出し,それに基づく地域区分で調査結果を集計した.例えば,進学先の選択にあたって相談する/した相手として,「学校や塾の先生」を選択した回答は,公立小学校・中学校の推定進学率が低い地域ほど高い傾向がある.特に,私立・国立の小学校・中学校に通わせたい/通わせているという回答が多い地域区分で高い.このような教育の専門家による進路選択への関与によって,子どもの教育面でのセグリゲーションが進んでいく状況がうかがえる.

(4) 階層帰属意識とセグリゲーション

 社会経済的なセグリゲーションが生じる行動的要因は,個人が居住地を選択する際,自分の所得や社会階層にふさわしい地域を選ぼうとする意思決定にある.そのことが主観的幸福感を高めるのか,3つの仮説が考えられる.①自分の帰属階層と居住地域に対する階層評価が等しいとき(同質性仮説).②自分の帰属階層が周囲より相対的に高いとき(優越感仮説).③自分の帰属階層より周囲の階層が相対的に高いとき(向上感仮説).本調査では,階層帰属意識を「日本全体の中で」と「現在お住まいの地域の中で」に分けてたずね,現在の居住地域における主観的幸福感との関係を調べた.分析結果からは仮説③が支持され,高い階層地域に転居したことに幸福感を得ていると推察される.

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