日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P085
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京都盆地南部・巨椋池干拓地におけるボーリング調査
*佐藤 善輝小野 映介
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抄録

1. はじめに

巨椋池はかつて京都盆地の南部に存在した淡水池沼である.1590年代に沿岸に太閤堤が築かれたのち,1941年に干拓によって消滅した.巨椋池周辺の地下地質に関する研究は多くあるものの,その成立過程や環境変遷については不明な点が多い.増田ほか(2019)は多数のボーリング資料の解析や既報の年代測定値に基づき,盆地南西部に木津川由来の砂から成る砂堆が分布し,7~8 ka頃にそのせき止め作用によって巨椋池の原型となる湖沼が形成され,5~3.5 kaに水域が拡大した可能性を指摘した.また,金原(2011)は花粉分析から,14~15世紀頃に水深が1 m程度増加した可能性を示唆した.本研究では,巨椋池の環境変遷を復元することを目的として,既存の長尺ボーリングコア試料の再観察に加えて,新規に浅層部のボーリング調査を実施し,珪藻化石分析,放射性炭素(14C)年代測定を行った.本発表ではその結果と予察的な考察について報告する.

2. 調査・分析方法

久御山IC付近で掘削されたKD-0コア(標高10.8 m;木谷・加茂,2010)について,深度3~15 mの層相を詳しく観察した.また,浅層部の堆積物をより詳細に観察するため,巨椋IC付近(標高約8.6 m)において,ハンドオーガーを用いて掘削長5.25 mのコア試料(OG-1)を新たに採取した.両コア試料から,珪藻化石分析用と14C年代測定用試料(計9点)を採取した.年代測定は加速器分析研究所に依頼し,AMS法により実施された.年代測定値はCalib8.2によって暦年較正し,データセットにはIntCal20を用いた.

3. 結果

1) KD-0コア

KD-0コアは,深度14 m以深に沖積層基底礫層と推定される礫層があり,それを覆う有機質シルトと中粒砂~砂礫の互層が深度7.8 mまで認められた.深度12.62 mおよび9.06 mから7,824 cal BP(確率中央値,以下同様),5,185 cal BPの年代測定値が得られた.深度7.8 m以浅では均質な粘土層から成り,深度7.1 mからは4,428 cal BPの年代測定値が得られた.珪藻化石は全体に保存状態が悪く,ほとんど産出しなかった.

2) OG-1コア

OG-1コアは4ユニットに区分される.

ユニット1(深度5.10~5.25 m):中粒砂~極粗粒砂から成り,後背地に分布する花崗岩に由来すると推定される長石や石英などの砂粒子が多く混じる.掘進不能となるため,本ユニットの下端深度は不明である.深度5.15-5.25 mと5.10-5.15 mからそれぞれ3,430 cal BP,4,740 cal BPの年代測定値が得られた.珪藻化石は,淡水生付着性種のEunotia属やPinnularia属が多産する.粗粒堆積物が卓越することから河川チャネルあるいは洪水堆積物の可能性が高い.

ユニット2(深度2.76~5.10 m):極細粒砂混じりシルトを主体とし,ところどころに極細粒砂~細粒砂の薄層を挟む.全体として上方に向けて砂分が増加し,上方粗粒化傾向を示す.深度4.40 m,4.45 m,2.76 mからそれぞれ4,122 cal BP,4,153 cal BP,908 cal BPの年代測定値が得られた.深度4.4 m以深では淡水生付着性種のCymbella属が多産し,河川指標種のRhoicosphenia abbreviataがやや多く産出する.深度4.4 m以浅は珪藻化石の含有量が少ない.

ユニット3(深度0.30~2.76 m):灰色を呈する均質な粘土~シルトから成り,深度2 m付近よりも下位ではやや腐植質となる.ユニット2と異なり,砂分の混入はほとんど認められない.深度2.70-2.75 mから1,292 cal BPの年代測定値が得られた.ユニット全体にCymbella属,Epithemia属などの淡水生付着性種が卓越する.ユニット2に比べて河川からの土砂供給が減少した可能性が示唆される.

ユニット4(深度0.00~0.30 m):埋土および耕作土である.

4.考察

OG-1コアでは全体に付着性珪藻が卓越し,Aulacoseira属などの浮遊性珪藻が卓越しないことから,少なくとも本コア掘削地点周辺では水深が1 mよりも浅い沼沢地~湿地の環境が長期間,維持されてきた可能性が高い.KD-0およびOG-1コア周辺における沼沢地の成立時期は4.7k頃と推定され,北東部(増田ほか,2019)よりもやや遅い.ユニット2から3への変化は,OG-1コア掘削地点周辺に流入する河川由来の粗粒堆積物の減少を示唆する.その年代はおおよそ1.3 ka頃と考えら得れる.少なくとも珪藻化石群集からは顕著な水深の増加は認められないことから,粗粒堆積物減少の要因としては,宇治川や木津川などの河道位置あるいは土砂供給量が変化したことや,築堤などの人為的な影響が考えられる.

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