1.はじめに
私は2016年~2020年の4年間、IGU(国際地理学連合)の第25代会長を務めた。日本から初めて、アジアで2人目の会長であった。この稀有な経験は、日本地理学会無しではあり得なかった。1980年8月留学先のロンドンから帰国、東京国際地理学会議(IGC) に参加したのが私のIGUとの最初の出会いであった。日本の大学で地理学を専攻しなかった私には、そこで会った日本の地理学者たちの国際化推進への意欲は印象的だった。日本地理学会はその日本の地理学界の中心にあり、それを足場に私は国内の土地利用変化研究の組織化や研究費の獲得、国際会議の開催、更にはIGUへの土地利用・被覆変化研究委員会の設置、IHDP(地球環境変化の人間的側面国際研究計画)への参加、日本学術会議での諸活動、IGU副会長・・と歩を進めた。そのような日本地理学会の実績と課題について考える。
2.IGUと日本の歴史的関係
IGUの初代会長はフランスのPrince Roland Bonaparte(1922~1924)、他に英国、イタリア、ベルギー、スペイン、日本の5か国の役員がいた。日本人の山崎直方は非欧州系唯一の役員(副会長)であった。日本はその後木内信蔵副会長(1972~1980)、吉野正敏副会長(1992~1996)、田邉裕副会長(2000~2008)、氷見山幸夫副会長(2010~2016)、同会長(2016~2020)、同副会長(2020~2024)とほぼ半世紀、ブランクを挟みつつも役員の襷を繋ぎ、IGUと日本の地理学界を結び支えてきた。IGU役員会は現在、会長、直前会長を含む9人の副会長、事務局長で構成される。副会長待遇の直前会長を除き選挙で選ばれるが、会長と事務局長は通常役員会内部で副会長経験者の中から候補者が絞り込まれる。とにかく次回の役員選挙で日本から副会長が選出されることを期待する。
3.IGU日本委員会と日本学術会議
IGUの会員は国であり、日本の場合日本政府が日本学術会議を通して分担金をIGUに払っている。IGU日本委員会の役割は日本学術会議地球惑星科学委員会IGU分科会が担っており、同分科会委員長はIGU日本委員会委員長を兼ね、IGUで日本を代表する。IGU分科会の委員はほぼすべて日本地理学会の会員だが、両者の連携は所与ではなく、関係者がその重要性を認識し、積極的に推進する必要がある。IGU各国委員会はIGUの規約に記された地理学の振興普及のための諸活動を国際的側面に留意しつつ国内で推進することが期待される。IGU役員会や国際学術会議、日本学術会議および関連の諸団体から各国委員会委員長に送られる多くのメールに目を通し、国内地理学界に適切に周知し対応することも各国委員会の重要な責務で、それには日本地理学会等の国内関連学会の協力が欠かせない。
4.IGUの主な活動への日本からの参加
IGUの主な集会には4年に1度の国際地理学会議(IGC, International Geographical Congress)と、基本的にそれらの中間年に開かれる国際地理学会議(RC, IGU Regional Conference)がある。IGCの歴史は古く、第1回は1871年のアントワープ大会に遡る。アジアでの開催は第21回デリー(1968)、第24回東京(1980)、第29回ソウル(2000)、第33回北京(2016)、第34回イスタンブール(2021)と続いている。東京大会から45年、そろそろ次のIGC招致を視野に入れたらどうか。IGUには40余りのコミッションがあり、研究集会の開催やIGCやRCでのセッションの開設、プロジェクトの企画推進などの活動をしている。各コミッションには議長と10人程の委員からなる執行委員会があるが、日本人議長も執行委員も近年減っている。地理オリンピックも成績が今一つである。学会としてやれることはないだろうか。
5.結語
IGUは国際学術会議(ISC)所属の国際学会の中で規模は特に大きくはないが、存在感と影響力は近年かなり大きい。それは歴代のIGU役員らの分野の枠を超えた活躍や持続可能社会を目指す諸活動への地理学者の大きな貢献に加え、学際性、超学際性、地域的視点、空間的視点、総合的視点、学術と教育の連携など地理学が元来有する特性が時代のニーズにフィットした面が強いと思われる。IGUとの関係の一層の強化は、日本の地理学界の更なる国際化と発展に大きく貢献する。またそれを日本学術会議における活動の強化と関連付ければ、斯学に対する国内的な理解の増進と評価の向上にも大いに役立つと思われる。