はじめに
2019年末から世界中で流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、日本でも2020年には緊急事態宣言が発令されるなど、社会に大きな影響を与え、ライフスタイルや人の移動に変化をもたらした。地理学にとって移動は重要トピックであり、近年の大都市圏構造の変化を語るうえでもコロナ禍の影響は無視できない。
そこで、本研究では京阪神大都市圏を対象としてコロナ禍における人の移動の変化を検討することで、近年の大都市圏構造の動態を分析する明らかにすることを目的とする。
資料と方法
本研究では資料として、第5回近畿圏パーソントリップ調査(2010年)と第6回近畿圏パーソントリップ調査(2021年)の結果を使用した。また、境界データについては国土数値情報ダウンロードサイトより使用した。
今回、資料とした第6回近畿圏パーソントリップ調査は本来2020年実施予定であったが、コロナ禍の影響で2021年に延期実施された。そのため、コロナ禍以後の動態調査として活用が期待できる。また、1日スケールであれば位置情報ビックデータの使用も考えられるが、通勤通学などの恒常的な移動行動を考えると、パーソントリップ調査のほうがよりライフスタイルの変化を浮き彫りにできるのではないだろうか。
分析方法は2010年と2021年のパーソントリップ調査から、平日・休日別に小ゾーンの目的別トリップの目的項目を就業目的と自由目的に分類し各目的の合計集中トリップ数から都心域と郊外核(以後まとめて「核」とする)を抽出した。次に、抽出した核に対し、小ゾーン別施設別集中トリップ数からクラスター分析(Ward法)を行い、核を分類し特性を比較分析した。各分類の中で変化のあった核について機能変化や移動傾向を年次比較し、機能変化の要因を考察した。そして、大都市圏の視点からもコロナ禍以後の大都市圏構造が従来の大都市圏構造と比べてどのように変化したのかをまとめる。
結果と考察
核の分布傾向は2010年から2021年にかけて大きく変化は見られなかった。しかし、各クラスターの施設トリップ先の構成には大きく変化があった。特にどのクラスターの核においても、住宅へのトリップ比率は格段に多くなった。これは、リモートワークや移動の自粛により多くなったものと考えられる。
また、核の特性が変化したものも見受けられた。都心部の大阪市西区では自由目的の移動が減り、相対的に就業目的の移動の割合が増えていた。これは、就業地としての機能の部分が可視化されたといえよう。
対して、郊外に当たる茨木市南部では特に商業地としての機能が弱まり、半分が住宅への移動、つまり在宅ワークなどにより家に留まる人が多かった。これは、オフィスワーカーの住宅供給地であったことが逆に示されたのではないだろうか。
これら核の機能変化は、それぞれの核に着目すれば、ライフスタイルの変化の影響を示された結果であり、コロナ禍以後の構造変化としてとらえることができると考えられる。
対して、都市圏として着目してみれば、それぞれの核の自由目的の移動が減ったことにより、より就業構造の可視化がなされたと言える。つまり、これまでの都心―郊外が就業地―住宅地として機能していたことが逆説的に説明されることになったと言えるのではないだろうか。
おわりに
本研究によって、コロナ禍以後のライフスタイルの変化によってそれぞれの核の機能変化が明らかとなった。しかし、それと同時に“都心に就業して、いわゆるベッドタウンに帰る。”というコロナ禍までの日本の就業スタイルが鮮明に浮き彫りになった。本研究は現在の動向を分析することで過去の社会がより明らかになる、一例となったと言えるのではないか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は5類に移行したことにより、大規模な報道や感染者の発表は常に目に見える形ではなくなった。しかし、社会に大きな影響は与え続けており、日常生活は変化し続いている。このアフターコロナの傾向はこの先も継続するのか追う必要がある。また、人口減少社会に突入している日本は、コロナ以後のライフスタイルの変化とともに、人口減少社会による社会構造の変化がどのように都市圏構造に影響するのか、今後の動向にも注目していく必要がある。