主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1 地理総合における地誌学習の位置づけ
高校地理における地誌学習について,現行の学習指導要領では,選択科目である地理探究は大項目「現代世界の地誌的考察」として位置づけられているが,地理総合は地誌学習に関する明確な位置づけがなされおらず,大項目「国際理解と国際協力」の中に中項目として「生活文化の多様性と国際理解」「地球的課題と国際理解」が位置づけられている。しかし,世界の様々な生活文化や諸課題を考えるにあたり,その地域の自然環境,民族・文化,産業や各地域間の関係性など地誌を切り離して考えることはできない。さらに,指導内容においては中学校社会科地理的分野,地理総合,地理探究で重複することのないよう留意しなければならない。そのため,地理総合では,中学校社会科地理的分野の学習を生かしつつ,地理探究の先行学習となることのないようカリキュラム・マネジメントを行う必要がある。
本報告では,現行の学習指導要領の現状を踏まえ,次期改訂に向けてエージェンシーの育成を意図した地理総合における地誌学習の実践とその成果について報告する。
2 授業実践
本実践は,「国際理解と国際協力」をベースに「地図や地理情報システムで捉える現代世界」より地域・国家間の結びつき,「持続可能な地域づくり」より空間的相互作用と地域調査を踏まえ単元構成を行った。単元は,世界各地の諸課題の解決を通して,世界平和の実現を目指すことをテーマに以下のような学習活動を設定した。
活動は1班4人構成で,班ごとに地域を設定し,設定した地域の調査から課題を見出し,課題の解決策を検討した。諸課題についてはそれぞれ自然環境や歴史・民族,産業構造など様々な背景がある。これらの系統地理的な学習は本単元前に学習済みであり,それらの知識や情報を分析し,諸課題の背景を読み解いていく。課題の解決策についてはその地域の現状も踏まえつつ,他地域での実践や協力などを踏まえた提案をする。これらをパワーポイントにまとめ,班ごとにクラス全体で発表し,質疑応答も踏まえて,課題や解決策について議論を行った。各班の発表に対しては個別で解決策に対する意見や自分自身ならこのような策をとるなどのまとめをする。そして,全班の発表後,単元全体のまとめとして世界平和実現のための見解を個人,クラスで整理した。
生徒の発表において,課題に対する解決策は世界や地域全体のような規模の大きな取り組みと私たち自身ができる身近で規模の小さい取り組みの大きく2つに分かれた。問題の所在によってアプローチの主体や方法を検討し,提案した策のデメリットやその対応についても発表,議論することができた。発表後の議論では,地域や課題の現状だけでなく,今後,どうなるのかの予測や他地域との関係性,日本との関わりに関する議論が多くみられた。また,同様の課題に対する地域ごとの比較をする場面もみられた。
このような姿から,様々な視点から諸課題と解決策について考察し,グローバル化が進行する現在,世界各地で起きていることは他人事ではない時代であることを理解していることがわかる。
3 地理総合とエージェンシーの育成
地理総合は次年度以降に地理探究を選択しない生徒にとって,学校における最後の地理学習の機会となる。そのため,地理総合での学びは重要な役割を果たす。
本実践では,各地域の歴史や情勢,経済状況など次年度以降に地理を選択しない生徒でも自身の得意分野を生かして発表,議論を繰り広げることができた。様々な興味・関心,得意分野を持つ生徒たちが協力することで諸課題に対する見解の具体化や解決策の欠点解消や現実可能性の拡大につながる。これは,協働的な学びの最大の利点である。また,本実践では地誌学習を通して,知識だけでなく,様々な事象を「結び付ける」力の育成にも寄与したと考える。現在,世界で起きている諸問題の背景には自然環境や歴史,産業,民族・文化など様々な事象が複雑に絡み合っている。様々な事象を結び付けることにより,問題を紐解き,多くの点に配慮しながら課題解決をすることが可能になる。
地理総合を通して,地理という幅広く,変化の激しい学問の知識と学習活動により培われる様々な力が社会をより良い方向へと変革する力であるエージェンシーとして,今後の社会を担う生徒の一助となることを期待する。