本研究では,徳島県海陽町宍喰浦地区にある小学校4~5年生の児童を対象に災害や地域条件に関する知識を活用した津波避難シミュレーションを通して災害時の判断能力を育成する津波防災教育を実施した。その結果,以下の結果及び課題が得られた。
授業を実施する前の小学校4年生及び小学校5年生の児童の多くは,建物倒壊による道路閉塞が発生する知識や津波の第1波が襲来する時間に関する知識が獲得していなかった。しかし,授業後の質問紙調査の結果を見ると,小学校周辺で建物倒壊による道路閉塞が発生するとは考えている児童は少ないが,津波から避難する際にどんなことに気を付けるかという問いに対して,狭い道を避ける,倒れてきそうな建物を確認しておくという児童の記述がみられた。また,津波の第1波の襲来時間についても正確な時間を回答していた。したがって,児童は,地域の災害に関する知識を獲得したと考えられる。
一方,児童が作成した事前の避難経路および逃げ地図を見比べると,実際に避難経路を変更させたのは,4年生及び5年生の児童合わせた5人のみであった。変更した児童の逃げ地図を見ると,建物が少ない所の道を選択して避難を考えたという記述があった。しかし,ほとんどの児童は,事前の避難経路と同じ経路を設定していた。このことから,避難行動を検討する上で必要な知識は獲得しているものの,実際に避難行動をシミュレーションする上で知識を活用することができない結果となった。