1.はじめに
能登半島地震(2024年)の課題のひとつに,道路の寸断等により物資支援が困難に陥った「孤立集落」が多数発生したことが挙げられた。わが国では,2004年の新潟県中越地震において「孤立集落」が着目されて以降,内閣府によりこれまで,2005年,2009年,2013年に「漁業集落」と「農業集落」に分けてそれぞれ全国調査が実施された。このうち,2013年調査での「農業集落」の孤立可能性は,全国58,734集落中,17,212集落(29.3%)であることが報告されており,集落ごとに,避難施設や備蓄状況,通信手段,ヘリ駐機場の有無等がまとめられている。 しかし,同調査からすでに10年以上を経ているほか,集落ごとの人口や世帯の状況については集計当時より「不明」とされているところも多くみられる。今後の発災に備え,災害対応計画を策定していく上では,その基本となる人口・世帯等の状況を明確にすることが求められる。そこで,本研究では,栃木県を対象として孤立可能性集落の人口推計を行うと同時に対応方策案を示すことを目的とする。栃木県の地勢は,県北部から西部にかけて標高2000mを超える那須,日光,足尾の連山が位置するほか,東部においても標高1000mほどの八溝山地が広がり,中央部を南流する鬼怒川沿いに比較的広い平野を有している。人口の多くは,この平野部に集中しているが,県北,県西,県南の谷筋を中心に小規模の農業集落が多数点在している。
2.研究方法
本研究では,内閣府により2013年に実施された全国調査「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査」(2014)をもとに実施した。同調査は「農業集落」単位で集計され,栃木県内の孤立可能性集落は249か所が挙げられているが,このうち,集落内人口が報告されているのは,52集落(20.9%)にとどまっている。そこで本研究では,2020年の農山村地域調査のShape file(3,502ポリゴン)から生成した地図をもとに,同年の国勢調査250mメッシュ統計を用いて面積按分し,集落単位での人口推計を行った。その際,65歳以上人口および世帯数も併せて抽出を行った。
3.考察・課題
発災時におけるドクターヘリ(時速約250㎞で)での医療搬送圏域より,県内全域は15~20分でカバーされるが100人以下の集落数が多く,駐機場を有しているのは90集落(36.1%)にとどまっていることから,域内での自主搬送に向けた共助体制の構築や,ドローンを活用した補完的医療体制の構築も同時に求められる。