主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
長野県諏訪湖では冬季に湖水が結氷しその氷が鞍状に隆起する御神渡りと呼ばれる現象が見られる。この現象は地元の神社によって長期的に観測され1444年から連続的に現存し、それを基に長期的な日本中部の冬季の気候を復元できる資料として広く活用されてきた(Gray1974など)。
歴史時代の気候を復元するには、20世紀以降を中心とした近代気象観測データと結氷・御神渡り日との関係を解明し、その関係に基づいて、気象観測データの存在しない時代の結氷・御神渡り期日から気候を推定する手法が有効である。そのため、近代気象観測データと結氷・御神渡りとの関係を解明することは、長期的な中部日本の気候復元をする上で重要である。
そこで本研究では、諏訪での近代気象観測が行われて以降の気象観測データと結氷・御神渡り日との関係を1924年から2023年の100年間を対象として検討した。使用データは、1924年から1944年は飯田測候所による諏訪郡役所での区内観測データ(毎朝10時に最高最低温度計にて気温観測)、1945年以降は諏訪測候所による観測データを用いた。結氷・御神渡り観測は複数団体が行なっておりその日付が異なる場合があるが、本研究では100年間の連続性を考慮して八剱神社による諏訪湖御渡注進録を使用した。天気図はデジタル台風サイトに掲載(気象庁印刷天気図)のものを使用し、その気圧配置分類は1941年12月~1970年12月, 1981年1月~2000年12月については気圧配置ごよみ(Yoshino et al. 1974,吉野2002)を使用し、そのほかの期間については前出文献の分類を参考に演者らが分類した.
先行研究にて日本の冬季気温は1987年を境として階段状に上昇していることが指摘されている(Kim et al. 2015)。そのため1987以前と以降では御神渡りの発生頻度にも大きな違いが現れている(三上ほか2024)。そこで本研究では対象研究期間100年間を1924-1986と1987-2023で区別して分析した。
結氷日当日はその前に比べて一段と気温が下がるものの、近年の結氷日はその下がり方が弱いことがわかる。また同様に調べた最高気温の推移は、結氷日前日に低下していることがわかった。以上のことから、結氷発生には前日の最高気温が低く、当日朝の最低気温が低いことが重要であると示唆される。冬季における西高東低冬型の気圧配置出現割合は、対象とした100年間で減少傾向にあった。このことから,諏訪湖が結氷するような強烈な寒さが発生しにくくなっているといえる.