主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.問題の所在
「スケートボード」は,東京2020オリンピックにおいて正式種目の一つとして採用された.これを機に,スケートボーディングはストリート・カルチャーとオリンピック競技という二つの側面を有することになり,これらを取り巻く環境に大きな変化が生まれた.本報告は,ストリートとスケートボードパークを含めたスケートボーディング空間を対象に,行為の意味が変わることで,スケートボーディング空間にどのような変容が見られるのかについて検討する.
2.調査の概要
報告者は,2024年10月3日から20日にかけて都立武蔵野公園におけるスケートボードエリアの管理と自治に関する聞き取りを実施した.調査対象は,都立武蔵野公園ノガワスケートボード協会というローカル団体のスケートボーダーと,同公園の指定管理者である武蔵野の公園パートナーズ,さらに東京都の行政管理機関である東京都建設局の三者である.また,ストリートを舞台としているスケートボーダーについては,スケートボーディング雑誌『SLIDER』に掲載されている実践者の声を基に分析した.
3.スケートボーディングを取り巻く空間の変遷
日本におけるスケートボーディングの歴史を辿ると,1980年代に原宿の歩行者天国で活動していたスケートボーダーの姿が確認できる.同時期には,スケートボーダーに「見出された空間(ボーデン 2006:2)」として,渋谷児童館(美竹公園)や新宿中央公園内にあるジャブ池が活動場所となっていた.これらの空間の特徴として,スケートボーダーは公園内に設置されている遊具や水遊び場を本来の利用方法とは異なる形で利用しており,これらの実践から都市空間の既存の用途を超えた新たな使い方を創造する行為としてスケートボーディングを位置付けることができる。しかし,上述で示した空間でのスケートボーディング行為は禁止され,水を張るといった管理者側からの対策により,スケートボーダーは排除の対象となった.
一方,2016年にスケートボーディングがオリンピック種目に採用されると,「建造された空間(ボーデン 2006:2)」として,全国的に公共施設としてのスケートボードパークの整備が顕著となる。NPO法人日本スケートパーク協会の発表によれば,国内における公共のスケートボードパークは2017年時点で100箇所であったが,2024年には475箇所にまで増加している。特に,この増加しているスケートボードパークの多くが,競技としての「スケートボード」を想定したパークや行政が一方的に整備した空間であり,スケートボーダーが求めるスケートボーディング空間とは大きな乖離がみられた.
4.「創出された空間」としてのスケートボードパーク
このような状況の中、都立武蔵野公園内に設けられていたスケートボードエリアでは,スケートボーダー自らがセクションを製作し,DIY型のスケートボードパークを創出した。これらの取り組みは,スケートボーダー自らで活動場所を獲得するだけでなく,公共空間の管理に利用者が関わる特異な事例としても捉えることができる.また,同公園では専門施設としてのスケートボードパークを整備する際に,スケートボーダーは公共空間の設計に参画するなど,専門知識を有する存在として位置づけられ,これらの空間を創出する主体として捉えることができる.
このように,公共空間において利用者の目線から整備を行うという,一見すると特異なスケートボードパークの事例は,これからの公共空間の再整備に新たな一面を見出す行為であり,彼らは公共空間に自らの居場所を創出したと解釈することができる.
文献
ボーデン,I. 著, 齋藤雅子・中川美穂・矢部恒彦訳 2006. 『スケートボーディング, 空間,都市―身体と建築』新曜社.Boden,I.2001 .Skateboarding,Space and the City―― Architecture and the Body: Berg Publishers.