日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P073
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平野部のLiDAR DTMから微小な人工地形を自動除去する簡易的手法の考案
*吉田 一希小荒井 衛
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抄録

背景・目的 自然災害リスクを推定する上で重要な地形分類図は、自然地形の傾斜変換線に基づいて地形面の境界を画定している。レーザ測量による数値地形モデル(LiDAR DTM)の登場により、高精度・高解像度の地形解析が可能となったが、これにはノイズのような人工地形が多数含まれているため、低地面のような極めて緩い傾斜地における傾斜変換線を正確に求めることが難しい。したがって、平野部においては高解像度DTMを用いた自然地形の自動地形分類は困難な状況にある。この問題に対処するため、LiDAR DTMからノイズのような人工地形を自動的に除去する方法を考案した。研究目的は、過去の自然地形の復元ではなく、平野部を代表する傾斜量を高解像度のまま(リサンプリングせずに)解析可能とすることにある。したがって、本研究で対象とする人工地形とは、小規模かつ短波長様のものであって、周囲の地形と比較してノイズパターンが変化している領域(例えば、道路・水路・堤防などに沿った線状地形、住宅地や水田などの平坦面と人工崖が密集した地形)を指す。

対象地域 地形学的に特徴が異なる平野部の以下3地区 (1)東京都新宿区:開析谷を有する緩勾配の段丘面、(2) 山梨県笛吹市:礫床河川を有する急勾配の扇状地、(3) カルフォルニア州サンノゼ:砂泥床河川を有する緩勾配の低地、を対象地域とした。

手法 以下の手順により、LiDAR DTMの主要な人工地形を除去し、擬似的な自然地形を表す滑らかなDTM (NDTM) を作成した。 1) オープンストリートマップの土地利用ベクトルデータを用いて、道路・水路などからのバッファを配置し、LiDAR DTM (A) からバッファエリア外のセルを抽出した(B)。2) GDALのgdal fillnodataによるIDW法によりBを内挿補間した(C)。3) WhiteboxToolsのバイラテラルフィルタを用いて、Cから擬似自然地形DEMを作成した(D)。4) AとDの差分値が0.1 m以上を人工地形とみなし、その領域をAから除外した(E)。5) 上記2)の手法によりEを内挿補間した(NDTM)。6) AとNDTMを差分すると人工地形が抽出できる。

結果・考察 バイラテラルフィルタのパラメータであるDSDとISDの違いによって生成されるNDTM の特徴が異なった。段丘面と谷底面の等高線は、DSDが増加すると滑らかになった。段丘面に発達した浅い谷は、平滑化が進むと不明瞭になった。これらの影響は、ISDの値とはほとんど無関係であった。 一方、ISDが大きいほど、段丘崖は滑らかになり、地形境界は不明瞭になった。この効果はDSD値が大きいほど顕著であった。縦断勾配が>2%の平野部では、LiDAR DTMとNDTM (約5 mグリッド)の傾斜量の平均値に大きな差は見られなかった。一方、<1%の平野部では、両者の傾斜量は大きく異なり、NDTMの傾斜量はLiDAR DTMのそれの最小値に近くなって、LiDAR DTMを約50 mグリッドにリサンプリングしたときの傾斜量とほぼ同じ値を示した。 既存の地形分類図による傾斜区分図(山梨県,1984)と、LiDAR DTM及びNDTM(約5 mグリッド)から算出した傾斜区分を比較すると、緩やかな斜面(1/4°~1/2°)の領域は、LiDAR DTMではほとんど区別できなかったが、NDTMでは明確に区別できた。これは、NDTMの傾斜量が地形図の等高線から得られた従来の傾斜測定値とよく一致することを示す。Iwahashi and Pike (2007)のDEM自動地形分類法をLiDAR DTMとNDTM(約5 mグリッド)に適用すると、LiDAR DTMでは低地と山地のみの極端な分類となったが、NDTMでは異なるスケールの扇状地の区別が改善されるとともに、扇状地の分類(mid fan, distal fanなど)が強化された。

文献:Iwahashi and Pike (2007) Geomorphology, 86, 409-440. Yoshida and Koarai (2024) Geomorphology, 465, 109388.

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