日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 306
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子育て世帯による社会関係の構築と育児不安の変化
—福岡市および宇美町の 地域子育て支援拠点事業の参加者を事例に—
*薄井 晴
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抄録

1.研究の目的と方法

 出産や子育てを控えた世帯は,居住地選択や社会関係の構築によって,どの程度計画的に出産や子育てに適した環境を準備できるのだろうか。このような問題意識を踏まえ,本研究は,子育て世帯が抱く育児不安を指標とし,居住地選択および社会関係の構築との関係性を議論することを目的としている。

 具体的には,2022年3月から2022年10月にかけて福岡県福岡市および宇美町において,地域子育て支援拠点事業の参加者計17名を対象に聞き取り調査を実施した。調査対象者に対する質問項目は,各種経歴(特に居住経歴・家族経歴・職業経歴),子育てに関する経験,育児不安の有無と内容,社会関係の構築である。

2.居住地移動とフォーマル・セクターの利用形態

 調査対象者の居住経歴に着目すると,結婚および自らあるいは配偶者の転勤のタイミングでの居住地移動が数多くみられる。しかし,居住地移動に関する意思決定において,出産前後から幼稚園・保育園などに入園するまでの育児を考慮していた事例は数が限られる。また,両親や義両親の介護が優先された事例,小学校以降の教育や進学が重視された事例も確認された。

 出産や育児を考慮した居住地選択の具体例としては,世帯規模に適した住宅の購入,親族の支援を受けるための一時的別居などが挙げられる。両親と同居し,慣れ親しんだ地域で子育てをすることで,家族および地域社会との関係性を活用したと語る男性も存在する。

3.育児不安の有無とその解消過程

 調査対象者を育児不安の程度によって類型区分した結果,(1)育児不安の経験が地域子育て支援拠点事業の担い手となる動機となった場合(3名),(2)育児不安を経験した場合(9名),(3)育児不安の経験を語らなかった場合(5名)の3類型に区分された。

 (1)に該当する調査対象者は,近隣との社会関係が十分に構築されていない状況下で,出産後に強い育児不安を感じ,引きこもり状態や理由も分からずに泣くような状態などを経験している。近隣住民や民生委員による声掛け,地域子育て支援拠点との関わりを,育児不安を克服する重要な転機として挙げており,その際の経験が地域子育て支援拠点事業の担い手となる動機であったと語っている。

 (2)の場合,出産直後や里帰り出産から自宅に戻った直後に育児不安を経験している。ただし,育児不安を解消する過程に関しては,明確な転機を認識していない傾向がみられる。したがって,出身地や実家から離れた地域での子育ては育児不安の一因となるが,個人の性格などによる影響も大きいように思われる。

4.今後の課題

 今後,母数を増やしたアンケート調査,個人の性格などの心理学的要因を踏まえた分析を実施することで,居住地選択・社会関係・育児不安の関係性を類型化・モデル化できる可能性が存在するように思われる。

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